--- ## 番外編 「知ってたよ」
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## 番外編 「知ってたよ」
(牧原りさ視点)
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陽太がいびきをかいて寝ている。
昔より、少しだけ安心できる寝顔。
でも——それを見るたびに、りさは思い出す。
“あの日”のことを。
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小学校の公園。
夕方。
告白。
そして、あの一言。
「ごめん。わからない」
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普通なら、それで終わりだ。
好きだった気持ちは、そこで終わる。
そういうはずだった。
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でも、あの日。
陽太の目だけは違っていた。
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子どもの目じゃなかった。
もっと遠くを見ていた。
“今の先”を見ている目。
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(ああ、この人)
りさはその時、なんとなく分かってしまった。
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この人は今ここにいるけど、
“ここにいない人”でもある。
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それから何年も、その違和感は消えなかった。
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普通に笑う。
普通に話す。
でも時々、ふっと止まる。
まるで“思い出してはいけない何か”を見ているみたいに。
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そしてある日。
りさは夢を見るようになった。
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知らない大人の陽太。
疲れた顔。
静かな部屋。
何かを後悔している背中。
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その陽太は、いつも同じことを言っていた。
「ごめん」
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りさはその夢から目が覚めるたびに思った。
(これ、誰?)
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でも、気づいてしまった。
その顔は“未来の陽太”じゃなくて。
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“選ばなかった陽太”だった。
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ある日。
りさは確信する。
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この人は、一度どこかで“失敗している”。
でもそれを隠して、ここに戻ってきている。
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それを知ったとき、怖いと思うはずだった。
普通なら。
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でもりさは違った。
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(じゃあ、やり直せばいいじゃん)
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そう思った。
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だから、何も聞かなかった。
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聞いたら、この人はまた逃げる気がしたから。
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今度は“自分から逃げる”んじゃなくて、
“この世界から逃げる”気がしたから。
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だからりさは、ずっと黙っていた。
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陽太がどんな顔をしていても。
どんな違和感を見ていても。
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ただ、隣にいた。
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そして少しずつ気づいた。
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この人は戻ってきたんじゃない。
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“戻る途中で止まってる人”なんだって。
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それでもいいと思った。
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だって。
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今ここにいる陽太は、
昔の陽太よりちゃんと笑うから。
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りさは陽太の髪を軽く触れる。
寝ているから気づかない。
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「ねえ」
小さくつぶやく。
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「知ってるよ」
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「一回、断ったでしょ」
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返事はない。
ただ寝息だけ。
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りさは少しだけ笑う。
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「でもさ」
「今ここにいるなら、それでいいじゃん」
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窓の外。
夜は静か。
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(過去なんて、どうでもいい)
(今が続けば、それでいい)
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りさはそう思う。
たぶん、ずっとそう思う。
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## 終




