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「春は、続いていく」





「春は、続いていく」


それから、世界は何事もなかったように進んだ。


いや、正確には——


“何事もなかったように見えるほど、ちゃんと続いた”。


---


陽太は社会人になっていた。


小学校の記憶も、あの不可解な出来事も、普通の人から見ればただの「昔の思い出」でしかない。


けれど陽太にとっては違う。


それは“やり直した証拠”だった。


---


夕方。


会社帰り。


駅のホームで、ふと肩に軽い衝撃。


「おい、ぼーっとすんなって」


振り向くと、牧原りさが立っている。


もう“友達の妹”ではない。


今は、ちゃんと隣にいる人だ。


---


「迎えに来た」


「毎回はいいって言ってるだろ」


「いいの。私が来たいから」


そう言って笑う。


昔より少し背が伸びて、でも笑い方はあのまま。


---


二人で歩く帰り道。


空は少しオレンジ色。


どこにでもある夕方。


でも陽太には、それが一番特別だった。


---


「ねえ陽太」


りさが言う。


「今、幸せ?」


---


少しだけ間があった。


昔の陽太なら、ここで答えられなかった。


でも今は違う。


---


「幸せだよ」


---


りさは一瞬だけ驚いて、それから笑った。


「即答じゃん」


「悩むと思ったのに」


---


陽太は肩をすくめる。


「昔は悩んでた」


「でも今は、もう悩む必要ない」


---


りさは少しだけ手を握る。


強すぎない力。


でも離れない温度。


---


「じゃあさ」


「もっと幸せにしよ」


---


その言葉に、陽太は笑う。


「それ以上いくの?」


「いくよ」


「どこまで?」


りさは空を見上げる。


---


「ずっと」


---


その一言で、十分だった。


---


帰り道。


母からメッセージが届く。


「今日はごはん来る?」


短い、普通の一言。


でも陽太はそれを見て、少しだけ安心する。


---


“壊れていた過去”は、もう遠い。


ちゃんと治ったわけじゃない。


ただ、それでも生きていける形になった。


---


夜。


りさと並んで歩きながら、陽太は思う。


あの時、断っていた未来もあったかもしれない。


選ばなかった人生もあったかもしれない。


でもそれはもう、どこにもない。


---


ここにあるのは一つだけ。


今の自分と、今の隣。


---


りさが小さく言う。


「ねえ陽太」


「うん」


「ずっと一緒、ってさ」


「言っていいと思う?」


---


陽太は少し笑ってから答える。


---


「言わなくても、もうそうじゃん」


---


りさは一瞬固まって、それから笑う。


今度は、安心した笑い方だった。


---


空には星が出ている。


派手じゃない夜。


でも、ちゃんと明るい夜。


---


陽太は思う。


人生はやり直せたのかはわからない。


でも——


“幸せは、ちゃんとここにある”。


---


## エピローグ 終


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