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## エピローグ 「春の続き」

## エピローグ 「春の続き」


それから、季節は普通に流れた。


あの“分岐”のような出来事を、誰もはっきりとは覚えていない。


ただ陽太だけが、夢のように残っている。


---


中学。


高校。


少しずつ変わる制服。


少しずつ変わる街。


それでも、変わらないものがあった。


---


放課後の帰り道。


牧原りさは、相変わらず隣にいる。


ただ、もう“距離”は昔とは違う。


子どもの無邪気さと、大人になりかけの揺れが混ざっている。


---


「ねえ陽太」


「ん?」


「たまにさ」


りさは空を見ながら言う。


「変な夢見るんだよね」


---


陽太は少しだけ足を止める。


---


「どんな?」


---


りさは少し笑う。


「大人の私と、大人の陽太がいる夢」


「でも、どっちもなんか疲れててさ」


---


陽太は何も言わない。


---


りさは続ける。


「でもね」


「その夢の中でも、ちゃんと隣にいるんだよね」


---


少し間。


---


「だからさ」


「たぶん大丈夫だと思う」


---


陽太は小さく笑う。


「何がだよ」


---


りさは肩をすくめる。


「わかんない」


「でも、たぶん全部」


---


その夜。


陽太は一人で窓の外を見る。


もう“影”はない。


あの揺れもない。


ただ普通の夜。


---


それでも時々思う。


もしあのまま断っていたら。


もしあのまま戻れなかったら。


もしあの選択が違っていたら。


---


でも、その“もし”はもう現実じゃない。


---


今ここにあるのは、


選び直した結果としての、ひとつの人生だけだ。


---


机の上には、昔の自分が書いたメモが一枚だけ残っている。


「誰かを好きになっていいのか」


少しだけ見つめて、陽太はペンを取る。


---


その下に、短く書く。


「もういい」


---


窓の外で風が揺れる。


カーテンが少しだけ動く。


---


その先に、誰かの気配はもうない。


---


ただ、春の匂いだけが残っていた。


---


## エピローグ 終


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