## 第十話 「観測者」
## 第十話 「観測者」
朝。
陽太は、目を開けた瞬間に“増えている”と分かった。
何が、とは言えない。
ただ確実に、昨日よりも世界が重い。
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教室。
りさは机の横にいる。
でも今日は、最初から静かだった。
笑わない。
喋らない。
ただ、陽太を見ている。
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「ねえ」
ようやく口を開く。
「昨日の続き、まだある」
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陽太は息を止める。
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「もう一人の陽太、夢じゃなかった」
りさは淡々と言う。
「会った」
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「……どこで」
「夢の中じゃない」
少し間。
「“重なった場所”」
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その言葉に、陽太の背中が冷える。
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昼休み。
椎名さくらが、何も言わずに陽太を屋上へ連れていく。
今日は、もう隠す気がない顔だった。
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「そろそろ限界だね」
開口一番、それだった。
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風がない屋上。
空だけが不自然に明るい。
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「陽太くん」
さくらはゆっくり振り向く。
「あなた、自分が“戻った”と思ってる?」
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陽太は答えられない。
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さくらは首を振る。
「違うよ」
「あなたは戻ってない」
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「……じゃあ何だよ」
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さくらは少しだけ間を置く。
そして言う。
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「“観測されてる側”」
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沈黙。
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「この時間はね」
「やり直しじゃない」
「分岐した人生を“全部同時に見てる箱”」
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陽太の喉が乾く。
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「だから、りさは壊れ始めてる」
「別のあなたたちを、同時に見てるから」
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放課後。
公園。
りさはもうブランコに座っていない。
立っている。
まっすぐ陽太を見ている。
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「ねえ」
「もうわかってるでしょ」
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陽太は動けない。
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りさは続ける。
「昨日からさ」
「私の中に、いっぱいいる」
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「優しい陽太」
「怖い陽太」
「何も選ばなかった陽太」
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一歩、近づく。
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「ねえ、どれが私の陽太?」
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その瞬間。
風が吹く。
今までで一番強く。
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公園の端。
さくらが立っている。
その隣に——母の姿まである。
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陽太の呼吸が止まる。
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「陽太」
母が言う。
「あなた、昔こう言ってたの」
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「“誰かを好きになったら壊れる気がする”って」
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りさが小さく震える。
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さくらが静かに言う。
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「全部の時間が、ここに集まってきてる」
「もう“今”は一つじゃない」
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りさは泣きそうな顔で笑う。
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「ねえ陽太」
「選んで」
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「私の中のあなたを」
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その瞬間。
三人の陽太が、はっきり見え始める。
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一人は、りさの隣に立つ。
一人は、母の方を見ている。
一人は、どこにも属していない。
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そして陽太は気づく。
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これはもう恋愛じゃない。
人生の選択でもない。
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“どの自分を現実として固定するか”という話になっている。
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## 第十話 終
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# 次回予告
第十一話「固定」
ついに崩れ始める“現実の統一”。
りさの中で決まろうとする一つの答え。
母の記憶が現実を書き換え始める。
そして最後に残る問い。
「陽太くん、あなたはどの人生を“本物”にする?」
選択が、世界そのものを確定させていく。
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