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# 第九話 「選ばれない未来」

## 第九話 「選ばれない未来」


朝。


陽太は目を開けた瞬間、違和感を“確信”に変えていた。


天井の位置が、昨日より少しだけ高い。


(……変わってる)


小さなズレなのに、逃げようのない感覚。


---


教室。


りさはもう机の横にいる。


でも今日は、いつもの笑顔ではなかった。


少しだけ、考え込むような顔。


---


「陽太」


「ん?」


りさは少し間を置く。


「昨日の夢さ」


陽太の背中が一瞬で冷える。


---


「また増えた」


その言葉に、陽太は固まる。


---


「大人の陽太がね」


りさはゆっくり言う。


「一人じゃなくなってきた」


---


「は?」


りさは困ったように笑う。


「同じ顔なのに、違うこと言ってる」


「“選ばなかった方の俺”って感じ」


---


陽太の呼吸が浅くなる。


(分岐が……混ざってる)


---


そのとき。


椎名さくらが後ろから現れる。


今日は最初から表情が重い。


---


「もう、隠せないね」


そう言って、陽太を見る。


---


放課後。


屋上。


風はない。


なのに空気だけが揺れている。


---


さくらは言う。


「ここ、やっぱり一つの時間じゃない」


「“選ばれた未来”が、全部残ってる」


---


陽太は眉をひそめる。


「どういう意味だよ」


---


さくらは空を見たまま続ける。


「普通はね」


「選ばれなかった未来は消える」


「でもここは違う」


---


一拍。


「消えずに、“重なってる”」


---


沈黙。


---


「だからりさは」


「別の陽太を夢で見てる」


---


陽太の喉が乾く。


---


「じゃあ俺は?」


---


さくらは少しだけ迷う。


そして言った。


---


「あなたは、“どの陽太か決まってない存在”」


---


その瞬間。


世界が一瞬だけ、薄くなる。


---


放課後の公園。


りさは立っていた。


そして——初めて、自分から言う。


---


「ねえ陽太」


「私さ」


「もう一人の陽太、見たことある気がする」


---


陽太の心臓が跳ねる。


---


りさは続ける。


「優しいけど」


「今の陽太より、すごく疲れてる」


---


(それは……35歳の俺だ)


---


りさは少し笑う。


でもその目は、もう子どもじゃない。


---


「ねえ」


「どっちが本物?」


---


そのとき。


公園の端。


影ではない。


“人の形”が三つ立っていた。


---


同じ顔。


同じ背丈。


でも、全部違う“陽太”。


---


一人は笑っている。

一人は黙っている。

一人は、こちらを見ていない。


---


りさが一歩下がる。


でも目は逸らさない。


---


「これ、選べるの?」


---


陽太は初めて気づく。


これはもう、


恋でもやり直しでもない。


---


“選ばれなかった人生が、全部こっちを見ている”


---


## 第九話 終


---


# 次回予告


第十話「観測者」


りさの中で統合されていく複数の記憶。


母がついに“存在しないはずの陽太”を語り始める。


そして椎名さくらの正体が明かされる。


「私はね、このズレを“記録する側”なの」


崩壊する時間の中で、陽太は最後の選択へ近づく。


---



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