## 第十一話 「固定」
## 第十一話 「固定」
朝。
陽太は、もう“朝が一つではない”ことを理解していた。
目を開けた瞬間、感じる。
今日はどの陽太の朝だ?
---
教室。
りさはそこにいた。
でも、昨日までと決定的に違う。
彼女はもう“陽太を待っていない”。
“陽太たちを見ている”。
---
「ねえ」
りさは静かに言う。
「今日ね、決めた」
---
陽太の喉が鳴る。
---
「私の中の“陽太”」
りさは指を折る。
「三人いるのは分かってる」
---
一人目。
「優しいけど、遠い陽太」
二人目。
「一緒にいるけど、何か隠してる陽太」
三人目。
---
りさは一瞬だけ黙る。
そして言う。
---
「まだ“来てない陽太”」
---
陽太の背中が冷える。
(来てない……?)
---
昼休み。
椎名さくらが、静かにノートを机に置く。
そこには、びっしりと同じ言葉が書かれていた。
---
「固定されていない観測点」
「重なり続ける分岐」
「未確定存在=春日陽太」
---
「ねえ陽太くん」
さくらはペンを止める。
「もう戻れないよ」
---
「戻る?」
陽太は小さく繰り返す。
---
さくらは首を振る。
「違う」
---
「どれか一つを“現実として固定する段階”」
---
沈黙。
---
放課後。
公園。
空気が重い。
風がないのに、世界だけが揺れている。
---
りさが立っている。
その周りに——三人の陽太がいる。
もう隠れていない。
完全に見えている。
---
一人目が言う。
「戻せ」
二人目が言う。
「このままでいい」
三人目は何も言わない。
---
りさはその全員を見ている。
---
「ねえ」
「私ね」
小さく笑う。
でも目は揺れていない。
---
「どの陽太でも、好きなんだよ」
---
その瞬間。
世界が一瞬止まる。
---
母が現れる。
さくらもいる。
りさもいる。
三人とも同じ方向を見ている。
---
そしてその中心に、陽太がいる。
---
さくらが言う。
「もう決まるよ」
---
母が言う。
「あなたは、どの子?」
---
りさが言う。
「私を選んで」
---
三人の陽太が同時に近づく。
---
“優しい陽太”はりさへ。
“迷っている陽太”は母へ。
“何も言わない陽太”は空へ。
---
陽太は気づく。
---
選択じゃない。
これはもう、
“自分を分ける儀式”だ。
---
りさが涙を流す。
「ねえ、お願い」
「一人にならないで」
---
その言葉が刺さる。
---
世界が白く揺れる。
---
## 第十一話 終
---
# 次回予告
第十二話「統合」
ついに始まる“現実の確定”。
りさの中で一つに収束していく記憶。
母が選んだ言葉の意味。
そして陽太が最後に出す答え。
「俺は、俺を一つに戻す」
分岐した人生が、ひとつに戻ろうとする。
---




