3-04 不意打ちの、ぎゅっ!
午後一時過ぎの客間にて、白玉は食後のお昼寝中。
かくいう私も、元のもふデカサイズに戻った白玉を枕に居眠りしている。
冷房の風が来るように、いつもご飯を食べている掘りごたつのある隣の和室との仕切りは全開にしている。
午前中の数時間もの時間を日光に当たっていたもふ毛は、天日干ししたお布団のごとくふわふわで寝心地が良い。
……もしかしたらお布団以上かも?
あとでブラッシングしようと目論みながら、もふもふ枕を堪能する。
異世界での旅の最中にも野宿でしょっちゅう白玉を枕にしていたせいか、こっちで枕にしても嫌がられない。
ただし、同じことを尚君がやろうとすると威嚇するけど……。
なので、尚君は私の隣でメガネを外して、座布団を並べて横になっている。
もたれかかっても良いよ? なーんて恥ずかしいことは言えないなあ。
ただ向かい合うのは気まずいので、ふたりとも上を向いて昼寝をしていた。
何気なく横目でちらっと尚君の寝顔を眺めてみる。
尚君とアッシュアリアの住民のスラッシュの顔立ちはそっくりなので、裸眼の尚君を見ているとスラッシュを思い出す。
そう言えば、アッシュアリアの夢も最近は見ないし、異世界からこっちに戻ってきてからスラッシュとは一度しか会ってないけど、元気にしてるかな?
なんてことを考えながら寝返りをうつと……。
「詩乃ちゃん……」
ちょっと横を向いたら、何故か尚君に背後から腰に手を回されて、ギュッとされました。
「へぁ……?」
なになに? どうしたの!? 完全に不意打ちなんだけど!?
思わず固まってしまったけど、ハッと我に返って尚君に声をかける。
「な、尚君!?!?」
「……」
しかし、へんじがなかった!
も、もしかして……寝てる……? 寝ぼけてて抱き着いてる??
バクバクする心臓を落ち着かせていると、小さな声が聞こえてきた。
「詩乃ちゃん、行かないで……」
「……尚君?」
行かないでって、どこに?
ここ数か月、ずっと尚君の家にお世話になっていて、どこかに行くようなこともないんだけれども。
疑問はありつつも、あまりにも真剣な尚君の声色に、私は思わず彼の手に触れた。
「……ここにいるよ」
もしかして、また異世界に行ってしまう可能性があることを恐れているのかな?
尚君の体感的には、ほとんど時間は経ってないはずなんだけどね。
でも現実はどうあれ、いまは私がいなくなる夢を見てたりしている可能性もあるかもしれない。
私はいつも尚君を心配させてばっかりだな。
「……すぅ……」
それに、尚君があんまり私に見せようとしない弱い部分を、不可抗力とは言え見てしまった。
頼りないかもしれないけど、もっと頼って欲しいなぁ……なんて思いながら彼の体温を背中で受け止めていると、安らかな寝息が聞こえてきてほっとした。
「……」
それにしてもあれだね。
動くと尚君が起きそうだから動けもしないし、ドキドキしすぎて寝れなくなったね、これは。
恥ずかしさ誤魔化しに、白玉をモフモフしよう。
何気なく白玉の毛に空いてる手を指し込んでみたら、手がスゥッと毛に吸い込まれた。
「ふわあああ……! モフい……!」
「ふっふっふっ。そうだろう、そうだろう。いくらでもモフっていいぞ」
白玉はいつの間にか起きたらしい。起こしちゃったかな?
「だが、シノはいまはモフるべき相手を間違えているんじゃないのか?」
言いたいことは分かるけど、何故私はフェンリルにジト目で見られなければならないのでしょうか。
「……この状態で、尚君をどうモフれと?」
後ろからやんわりとホールドされておりまして、動けないんですが。
ちなみに私と白玉の声は小声です。
「そこを上手いところやるのが番の役目だろう!」
「番じゃなくて、恋人だってば!」
「似たようなものだろ!」
「微妙に違うんだから、一緒にしちゃだめ!」
言い争っているうちに段々声がヒートアップしてきて、最終的に尚君が起きてしまった。
「う……うーん……? ふたりともどうしたんですか?」
ねえねえ、ちょっとちょっと?
寝ぼけた尚君が私の肩に顎を乗せて来るんだけど!
こういうときどういう顔すればいいか分かんないんだけど!?
さすがの白玉も呆れた眼差しで私たちを眺めている。
「どうしたって、お前……。ん?」
白玉がじっと尚君の顔を見つめている。
メガネをかけてないから珍しいのかな?
「あっ、詩乃ちゃん! ごめんなさい!」
白玉にガン見されたことで、尚君はハッと我に返ったらしい。
私から慌てて離れて、謝りながらメガネを探す。
「べ、べつに良いけど……もうちょっと抱きついたって……」
「えっ、いま何か言いましたか?」
小声で本音を漏らしたら、ツンデレみたいな返事になってしまったけど、メガネを装着してほっとする尚君の耳には入っていないようでした、まる。
「な、なんでもないー!」
そんな私たちのことを、白玉は探るような眼差しで見つめていた。
私たち……と言うより、尚君のほうを見てるかな?
そんなにメガネをしてない姿が珍しかった?
そう思って尚君の顔をじっと見つめていると、とあることに気付いた。
「あれ、尚君……目が……」
「えっ?」
光の当たり加減のせいか、目の色がちょっとおかしい感じに見える。
なんだろう……なんとなく、いつもの黒目に錆びた金色が滲んでいるように見える気が……。
「もしかして、泣いてた?」
「な、泣いてませんけど……なにか変ですか?」
尚君がそう言って瞼をごしごし掻いている。
泣いてないって言うけど、泣いたのを誤魔化すときの反応そのものじゃない?
次に開いたときの尚君の目は、少しだけ赤く見えていた。
あと照れているせいか、顔もちょっとだけ赤かった。
何なら、そんな彼を見つめる私の顔もほんのり赤くなっている自覚はある!
いつもと違う色に見えたのは、気のせいだったかな。




