3-02 尚君の秘密のお買い物
食べ歩きを終えた私たちは、買い物を再開する。
「ジュース冷えてて美味しかったですね」
「ね! あ、そうだ! 暑いしアイス買おうよ、アイス!」
「アイスですか……」
アイスの話題になった途端に、尚君が考え込むような表情をし始めた。
もしかして……。
「すでに冷凍庫に何か仕込んでる?」
「まだですけど、夏の間に作りたいものがあるんですよ。なので材料を買いますね」
「ふむぅ? 何を作りたいの? 気になるな~、気になるな〜?」
首を傾げて歌うように問いかけていたら、尚君が微笑ましそうに答えた。
「出来てからのお楽しみです」
「材料で当ててみても良い?」
「良いですよ」
「当たったら、うーん……尚君の家事一日お休みね!」
少しでも尚君の負担を減らしたいからね。
なんて思ったけど、尚君は予想外にショックを受けたような表情をした。
「えっ?」
「えっ? なんでそこで悲しそうな顔するのかな?」
「料理は趣味も兼ねているので、ノーカウントですよね……?」
「バナナがおやつに含まれるように、料理は家事にカウントに含まれます」
「えぇ……」
そんな、ガーン! と言う効果音が聞こえてきそうな絶望に包まれた顔せんでも……。
少しでも休んで欲しいだけなのに、罪悪感が芽生えてくる……!
「お、お菓子だけはノーカウントで……」
「う、ぐぐ……」
でも正直、尚君の料理は美味しいし、白玉も楽しみにしてるみたいなんだよね。
そう、私の料理よりも……!
「どうして詩乃ちゃんまでへこんでいるんですか?」
「うーん、だってねえ……」
私が料理をすると、白玉はあからさまに残念そうな顔するようになったよ。
口では言わないけど「今日の料理係はオーヤじゃないのか」とか「仕方ない、食べてやるか」みたいな態度を隠しもしない。
完全に! 餌付けされている……!
でもそのあと、「シノの料理も美味いな!」って言ってくれるので、優しい元聖女さまは許して差し上げましょう!
「まあ私の悲しみはそっとしておくとして、今日食べる分のアイスも買って帰ろうよ」
「そうですね。帰ってから作っても、今日のおやつには食べられませんから」
なんて話をしつつ、いろんなお店で料理の材料を買っていく。
主に食べ物の話しかしてないけど、これは仕方がないのだ……。
だってこの世界には、美味しいものがいっぱいあるから!
「アイスはどれにしますか?」
「うーん、尚君が作るものと被らない方が良いよね」
「被っても大丈夫ですよ」
「尚君の味と市販の味、それぞれが楽しめるから?」
それにしても、何作ろうとしてるんだろう~?
これまでに買った中でアイスに使いそうな材料は……フルーツミックスの缶詰、練乳……あたりかな?
でも他の材料と一緒に買ってるから、絞り込みにくい……!
白玉粉もあるけど、これは白玉に白玉を食べさせたいだけかな?
アイスの話をしているから、ゼリーではないだろうし……。
フルーツいっぱいだから、ケーキ作るの? って一瞬思ったから、アイスケーキかなあ?
でもアイスケーキに練乳って使うの?
他にフルーツ使いそうなものと言うと、うーん……。
「アイスキャンディーかなあ」
チラッと尚君の顔を見てみたけど、ニコニコしているだけで、答えてくれない。
くぅ~! 当たったか外れたかもわからなければ、掠ってるのかすら分からない……!
「色んな味が楽しめるので、バラエティパックのアイスが良いですかね」
そう言って、私を惑わすようにアイスキャンディのバラエティパックを買い物カゴに入れる尚君であった。
「ほな、アイスキャンディちがうか~……?」
いやでも被っても大丈夫って言ってたし? バラエティパックだから味色々だし?
同じアイスキャンディの可能性もワンチャンある?
でも尚君に限ってそんな、同じものを選ぶなんてことはしないと思うけど……でも……!
「なんもわかんな~~~い!?」
ぶつぶつ呟いて頭を抱える私を見て、尚君がほのぼのと微笑んでいた。
さてさて、食材もデザートのアイスも消耗品もばっちり買ったので、あとは帰るだけ!
最後に商店街の荷物配送サービスに買ったものを預けて、帰宅ー!
お肉とかお魚とか生モノは受け付けてくれないけど、常温管理できるものは当日夕方までに送ってくれるんですって。
二人プラス一匹暮らしの癖に爆買いするすずらん荘一味にとっては大変ありがたい仕組みだけど、きっと本来このサービスのメインターゲットはご老人向けなんだろうなぁ……。
相乗りさせてくれてありがとう、商店街の皆さん……!
「急に祈ってどうしたんですか?」
「人の温かさを実感して、感謝の気持ちを……」
荷物を預かってくれた商店街の事務所に向かって祈りを捧げていたら、尚君に心配そうな目で見られてしまった。
私と尚君は来た時と同じように、ゆっくりと商店街のアーケードを歩いていく。
もうそろそろで正午なので、来た時よりも気温が高くなっている気がする。
帰って早く涼みたいな。そう思っていると、ふと尚君が問いかけた。
「詩乃ちゃん、楽しいですか?」
何気ない質問だけれども、優しさの籠もった声色にとても安心する。
もう心配ごとはないよ、頑張りすぎなくて良いんだよ……そう言ってくれているようで、私は微笑んだ。
「うん! 仕事も無理しなくて良くなったし、尚君と白玉と一緒の毎日は賑やかで楽しいからね」
「それは……良かったです」
このままフルタイムの働きに出ずに過ごしたいなあと思うけど、そうもいかないから仕事探さないとね。
おもちゃ屋さんの前を通りがかると、ふと尚君が足を止めた。
「あ、詩乃ちゃん。おもちゃ屋さんに寄るので先に帰ってください」
「え? 付き合うよ? でも、尚君がおもちゃ屋さんに行くのって珍しいね」
「探してるものがあって……」
「おもちゃ屋さんで探し物……?」
なんだろう? 白玉の遊び道具?
でもそう言うのは、ペットショップに売ってそうだよね。
「アイス溶けちゃうので、先に帰ってくださいね?」
なんだろう。気を使ってくれているようで、それでいて早く帰れコールされてる気がする。
「保冷剤あるから、そんなすぐには溶けないと思うけども……」
「詩乃ちゃんたちを驚かせたいんですよ」
「圧倒的な尽くしパワーに、普段から驚かされてるよ?」
なんなら、もうじゅうぶんに驚かされてるから、これ以上は良いよ?
「まあまあ、白玉と一緒に楽しみに待っていてください」
「そこまで言うなら……言ってらっしゃい」
出待ちしようかな?
と思ったけど、尚君はサプライズしたそうにしていたように思えたので、先に帰ることにした。
今日の尚君は、秘密がいっぱいな日らしい。
ひと(神獣含む)を構ってばかりのお世話好きな彼だけど、そう言う日もあるのかな。
「おもちゃ屋さんってアイス作りに関係あるかな? かき氷機とか?」
尚君がどんなアイスを作るのかを考えながら、日傘をさしてトボトボ歩く。
行きは一緒だったからちょっと寂しさを感じていたところ、ふと、すれ違った人たちの会話が耳に流れてきた。
「聞いてよ〜。最近さ、変な夢みなくなったんだよ」
「変な夢って、前に言ってた空が灰色の世界ってやつ?」
「そそ、それそれ!」
ん? 灰色の空の世界?
それってアッシュアリアのことかな?
私と尚君以外にもアッシュアリアの夢を見ているひとがいるんだなと思いながら、聞き耳を立ててみた。
「別に見なくても良いんじゃねえの?」
「まあそれはそうなんだけど、今まで見てた夢が見れなくなったとか、何かの暗示みたいで気になるじゃん!?」
「それよか、よく夢を覚えてんなあ」
遠ざかって行くひとの会話を聞きつつ、私はふとそう言えばと思い出した。
「私も、アッシュアリアの夢を見なくなったなあ……」
なんでだろう? と思うものの、答えが分かるわけもない。
「……まあいつ見るか分からない夢だし、気にするほどじゃないかな?」




