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異世界還りの元聖女へのご褒美は、スパダリ元彼によるフェンリル付き甘やかされスローライフです ~ただいま、すずらん荘~  作者: 江東乃かりん


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3-01 神獣への供物を求めて、いざ夏の商店街へ!

 退職代行騒ぎのあと、私は無事に会社を辞めることが出来た。


 上司は、降格処分になったらしい。

 最初は私の言い分を疑っていた人事部だけど、セキュリティカードに残されていた今更気付くなんて遅すぎる人事部真っ青な社畜による入退室記録と、尚君が残した上司の音声、それに他にもパワハラ被害を受けていた同僚からの密告により、思ったより穏やかに退職出来た。

 ちゃんと働いた分のお金ももらえたので、良かった良かった。


 ちなみにその上司、今は同じくパワハラ被害を受けていた同僚がリーダーのチームに配属になったらしく、肩身狭そうにしているらしい。


 と言うわけで、知らないうちにざまぁをキメていたみたいだけど、あの会社を辞めた私にはもう関係はない。関わりたくもない。

 だけどそんな結果を知らされて、私はようやく落ち着いたな……って思えるようになった。


 少しだけ休んだら就活始めようかな……と思ったけど、最近は商店街のバイトと尚君の事務手伝いをして過ごしている。

 私が就活の話をすると尚君が妙に不安そうにするのが気になって、今に至る。

 もう少しだけ心を休めても良いかな……なんて自分に言い聞かせている。


「とはいえ、のんびりしすぎてる気もするな〜」


 と言うわけで、あんなに必死に働いていた社畜だったけど、メンタルを壊した結果、立派なフリーターが出来上がりましたとさ。


――さて。季節は変わり、夏のはじめの、7月。


 すずらん荘の前に咲いていたすずらんは、気づけばすっかり姿が見えなくなっている。

 その代わりに蕾を付けたヒマワリが、背を伸ばしていた。

 今はまだ咲いていないけれども、あと何日かすると満開に咲いて、夏定番の暑苦しい姿を見せてくれるはず。


 満開になったヒマワリを想像するだけでとてつもなく懐かしい気がしてしまうのは、こちらの世界に戻ってきてから初めての夏になるからだと思う。

 夏祭りに花火大会と、日本の夏はイベントが盛りだくさん。

 ちゃんと帰ってこれたんだから、記憶に残るような楽しい夏にしたいな……!

 ジリジリとした陽射しが痛いくらいに暑い日々が続いているけれども、夏の本番はまだまだこれからだからね。


 これからの出来事を思い浮かべてワクワクする私の隣で、尚君がヒマワリをじっと見つめながら呟いた。


「白玉って、ヒマワリの種は食べるんでしょうか……」

「白玉はハムスターじゃないよ?」


 そうツッコミしたけど、種が取れるようになったらヒマワリの種料理が振舞われそうな気がする。


 ただいま私と尚君は、日傘をさしてお出かけ中。

 フェンリルの白玉は、冷房完備のおうちでお留守番です。


 え? デート? チガウヨ? お買い物だヨ?

 主に、獲物に餓える神獣へ捧げる食糧の買い出しだよ??


「暑いねー」

「そうですねー」


 目的地の商店街はアーケードなので、雨の日も真夏日も安心!

 屋根付きとは言え、酷暑日はそもそも空気自体が暑すぎるんだけど、ないよりマシということで。

 私たちはアーケード内に入ると、速攻で折り畳みの日傘を仕舞い込んだ。


「買い物やめたいくらい、あっついよねえ」


 開店中のお店からひんやりとした風が当たる度に、「あー、うごきたくないでござるー」ってごねたくなる。


「でも行かないと食べるものなくなりますから」

「主に、もふもふなフェンリルの食い意地が原因でね……」


 季節が変わっても、フェンリルの白玉はまだ現代日本に滞在し続けている。

 たまに「いつまでいるの?」って聞きたくなる。

 答えはなんとなく予想できるので、聞いてないけども。


「今日のご飯は何にしましょうか」

「暑いから、冷たいものが良いよね」

「あとはせっかくなので、白玉が食べたことのないものが良いかもしれませんね」


 尚君の最近の生き甲斐は白玉を肥やすことかな? ってくらいせっせと料理を作るし、そして白い獣はいくらでも食べる!

 ちなみに、白玉がこっちの世界にやってきておよそ2か月の間で、どれだけ肥えたかは分からない。

 何故ならば、家で活動できるようにワン()サイズに変形しているから、誰も最近の本来の姿を見ていないのである!

 本人……もとい本犬ですら、どれだけ太ったか気付いていないと思う。


「食べたことのないもの……うーん、そうめんとか?」

「白玉、麺類食べられますかね?」

「食べにくいかなあ。あとそうめんはお腹いっぱいになりにくいから、めちゃくちゃ茹でないといけなくなりそうだね」


 わんこそばならぬ、わんこ茹でになりそう。

 犬なだけに。……白玉はフェンリルだけど。


「夏だからそうめんはそうめんで買っておくとして、別の案も考えようか」

「そうですね……。あ! 冷しゃぶはどうですか?」

「おっ、いいね~!」


 時間はお昼前で、お惣菜屋さんが揚げたてのコロッケを並べているところだった。


「コロッケ揚げたてだよー!」

「あ! 揚げたてコロッケ美味しそう〜!」


 夕飯の献立について話し中だったこともあって、見てるだけでお腹が空いてくる。

 他にもから揚げとかアジフライとかヒレカツとかが並んでいるので、どれもお昼間近のお腹と視覚にはだいぶ刺激的。


「じゃあ買って食べましょうか。ふたつ、食べ歩きでお願いします」

「あいよ〜!」


 このお惣菜屋さんは、お願いすればコロッケとから揚げは食べ歩きスタイルで提供してくれるのである!

 ところで、私の「美味しそう」発言から秒速で買いに走る尚君の素早さよ……。

 ありがたいけど、ふたつってことは……。


「白玉のぶんは?」

「……秘密にしましょう」


 右手の人差し指でしーっとポージングする尚君は、だいぶお茶目である。


「そうだね、家帰った頃には冷めてるからね!」


 冷めてても充分に美味しいんだけどね。

 お留守番してるから仕方ないよね! ってことにしておこう。


「流石に、コロッケの匂いでバレることはないと思うから、大丈夫でしょ」

「……どうでしょう。フェンリルですから、多少の匂いでも気付くかもしれません。であれば、匂いを上書きする食べ物を買って帰らないといけませんね……」


 アリバイ作りを計画する真顔な尚君の中で、白玉はどんだけ高性能嗅覚なんだ。


「餃子とか?」

「出来た餃子じゃないと、たぶん匂いは誤魔化せないかもしれませんね……」


 白玉に対する尚君の評価は「喰い意地が張った獣」なんだろうな。

 フェンリルとしての威厳は、食欲によって打ち消されてしまったみたい。


「餃子のお話していたら、食べたくなってきた……」


 かくいう私も、白玉に次ぐ食欲の持ち主である!

 飼い犬は飼い主に似るって言うけど、違うよね? 逆だよね~!?


「お待たせ! お店のそばで涼みながら食べて良いよ!」


 お金の受け渡しを終えて、包み紙にひとつずつコロッケを入れてもらって手渡してもらう。

 包みがほかほか~!


「ありがとうございます!」


 と言うわけで、ありがたく冷房がついたお店のすぐそばで涼みながら、ほかほかのコロッケを堪能するのである。


「はふっ、はふっ……!」

「火傷しないように、気を付けてくださいね?」


 隣で尚君が心配そうに見てるけど、私はちびっこで、尚君がおかんかな?


 ふーふーして少しでも熱を飛ばしてから、コロッケにがぶり! とかぶりつく。

 サクッとした衣の音が軽快〜!


「ん〜〜!! あついけど、おいしい~! 外はサクッとしてて、中身はほくほくなお芋と牛肉が詰まっていてジューシー!」

「コロッケは揚げたてが一番ですね」

「うん!」


 尚君も美味しそうに食べている。

 うんうん、平穏を実感する良い日!


 そんなこんなで、うまうまとコロッケを堪能していると、尚君が不意に紙コップを差し出してきた。


「はい、詩乃ちゃん。飲み物」


 八百屋さんのロゴが描かれた紙コップを受け取る。


「わー、ありがとう! 八百屋さんのフレッシュジュース、美味しいんだよね~!」


 中身は商店街の八百屋さんの果物を使ったフレッシュジュースだと思う。

 常設メニューではないので、売ってるのを見つけたらラッキーな日!

 色はオレンジだし、オレンジジュースかな〜?

 ……って、ちょっと待った!!


「……って、いつ買ってきたの!?」

「詩乃ちゃんがコロッケを一生懸命ふーふーしている間ですね」


 ほのぼのと微笑んでるけど、いつの間に!?


「え? すぐそばにいたよね!? ずっと一緒にいたよね!? 尚君、分身してない!?」

「え? 八百屋さん、すぐ近くですよ?」

「にしたって、買うの早いよ!」


 白玉が来てからというもの、尚君の超人具合ならぬ尽くし度レベルのカンスト度合いを思い知らされることが多い。

 そして私は後手に回ってばかり。

 たまには尚君を「あっ!」と言わせたい!


「まあまあ。冷たいうちに飲みましょう」

「んもう」


 と口で文句は言いつつも、有難いものは有難いし、美味しいものは美味しいので頂きます。


「美味しい~! スッキリした甘さで暑い日に合うね。尚君も同じオレンジジュース?」

「僕のはメロンですよ」

「メロンも良いよね! 夏だし季節限定?」

「そうですよ。詩乃ちゃんも、ひとくち飲みます?」


 尚君はそう言って、飲みかけのコップを差し出してきた。

 飲みたいってねだったつもりじゃなかったけど、尚君の仕草は親しいひとに対するごく自然な態度だったので、私も何気なく提案してみた。


「じゃあ私のオレンジもどうぞ!」

「えっ? あ、有難うございます……」

「ん~! 美味しいね~!」

「そ、そうですね?」


 渡したときの尚君のぎこちない仕草にあとから気付いたけど……。

 あれ? これってもしかして……間接キスってやつでは?

 ハッと気づいて隣の尚君を眺めて見ると、何気に耳が真っ赤になっていた。

 思わず私まで照れてしまう。


 飲み食べした後、ゴミを回収してもらったお惣菜屋さんと隣の八百屋さんから、生暖か〜い眼差しを頂戴しましたとさ。

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