3-00 スラッシュ/尚哉
おまたせしました…!
3章更新です!
灰色の空が広がる世界の湖で、スラッシュは眉をひそめて水面を見下ろしていた。
「詩乃……」
揺らぐ水面には、楽しそうに会話をしている詩乃が映り込んでいる。
その隣には、尚哉と白銀の毛並みを持つ神獣の姿があった。
「何故あいつばかり、詩乃のそばにいるんだ!」
唇を噛みしめたスラッシュは、ほんの僅かな間に自分と瓜二つの尚哉を睨みつけると、その幻影に向かって手をかざす。
スラッシュの右手を中心に漆黒の波動が集まったかと思うと、それはバチッと光に弾かれて霧散した。
「クソッ! 向こうに干渉できない……!」
手を抑えながら忌々しそうに水面を見つめると、不意に彼と神獣の目が合う。
得意げに尻尾を振る白銀の獣の様子は、まるでスラッシュを挑発しているようでもあった。
「やはり、この神獣の仕業か!」
スラッシュが苛立ちながら踵を返すと、水面からは詩乃たちの幻影が消えた。
「こうなったら力ずくでも、詩乃をこっちに呼び寄せてやる」
移動したスラッシュは、詩乃がアッシュアリアで過ごしている村を高台から見下ろす。
まだ昼間だと言うのに、村には人っ子ひとり居ない。
それどころか、商店の店先には商品が陳列されており、畑のど真ん中には鍬が刺さったまま途中で放り出されているという、中途半端な状態だった。
その様子はまるで、穏やかな生活を過ごしていた村人たちが、気付かぬ間に何かに飲み込まれて消えてしまったかのようだった。
事実、村人たちはアッシュアリアから失踪していた。
「詩乃を助けるために、この世界の住民の魂を犠牲にしたんだ」
スラッシュの手によって、消されていたのだった。
「なら、それを望んだお前だって、俺のために犠牲になるべきだろう? 尚哉」
――
カチコチと時計の秒針が鳴り響く中で、大谷 尚哉は飛び起きた。
「ッ!!」
悪夢でも見たのだろうか、呼吸は荒く、全身にじっとりと汗をかいている。
飛び起きたばかりの尚哉は、枕元に置いていたメガネを真っ先に探して、すぐにかけた。
いつも身に着けているものがあることで安心したのか、胸に手を当てて深呼吸を始める。
そうしているうちに、呼吸や苦しそうな表情も落ち着いた彼が時計を見ると、針は深夜の二時を指していた。
「……夢みたいだな。ついこの前まで、この時間になっても詩乃ちゃんが帰ってこなかったのが……」
汗を拭きに洗面所に向かおうとした尚哉は、ドアを開けた瞬間にびくっと身体を震わせる。
白銀の毛並みを持つフェンリルが、真っ暗な廊下で淡く光って佇んでいたからだ。
「し、白玉?」
驚きで目を見開いた尚哉が声をかけると、光はすぐに収まった。
「び、びっくりしました」
「起きたか。またうなされていたようだな」
「……うるさい寝言でも漏れ聞こえましたか?」
「いいや。変な魔力は漏れていたがな」
「……変な魔力……ですか」
苦笑した尚哉が洗面所に向かうと、胡乱な目をしたままの白玉も後をついていく。
「白玉は前にも変な魔力がまとわりついていると、夜中に言っていましたよね? 詩乃ちゃんのそばにいなくて良いんですか?」
「シノの対策はしたからな。肉球を顔に押し当てても起きないくらいに、爆睡しているぞ。それよりオーヤの方が気になってな」
「僕のことを心配してくれるんですか?」
「お前にはメシの世話になっているし、シノの番だからな」
ひとりと一匹は薄暗い廊下を歩きながら、詩乃が起きないように小声で話す。
「……こっちに来る前までは、シノが不憫な思いをしていたら連れ帰るつもりだった」
「え?」
白玉の言葉に、尚哉は足を止めて振り返る。
尚哉の顔色が悪く見えるのは、周囲が薄暗い上に彼が寝起きだから……と言う理由だけではないのだろう。
「俺は直接は知らないんだが、俺たちの世界に召喚されたばかりの頃のシノはかなりやつれていたらしい。本人が望んでいたとしても、そんな世界に戻せばシノが不幸になると思っていたんだ」
「……それは……」
「分かってる。この前のデンワというやつから聞こえた悪者のせいだろ?」
「……はい。あの件は解決しましたし、詩乃ちゃんが辛い思いをすることもなくなった、はずです……」
「ああ。それに、オーヤと一緒にいるシノは楽しそうだし、メシは旨いからな。だから、連れ戻す気はなくなったんだが……」
「だが……?」
不安げに揺れる尚哉の瞳をジッと見つめ返すと、白玉はすぐに尻尾を揺らして視線をそらした。
「この世界がシノを不幸にするようなことがあれば、俺たちはシノを向こうに連れ戻すぞ」
「それは……困ります……」
「ならば、ふたりで一緒に幸せになれ。お前たちは番なんだろう?」
「まだ結婚していませんし、初々しさがウリの恋人ですけど……」
「呑気なことを言ってないで、とっとと結婚しろ。他の男に取られても知らんぞ!」
苦笑する尚哉に発破をかけると、白玉は足音を立てて去っていく。
その姿を見送った尚哉は、溜め息をついて洗面所のドアを開けた。
「やっと戻ってきてくれたんだ。連れ戻されたら、困る……」
鏡を前にした彼は、眉をしかめて呟く。
「でも……」
鏡に映るのは、メガネをかけた優男の姿。
「僕は……白玉の言うように、詩乃ちゃんを幸せにすることが出来るんだろうか……」
しかしそこに一瞬だけ、別の男が映ったように見えたのは、気のせいだろうか。
3章はまだ書ききれていないので、ストックなくなり次第また途中で更新お休みする可能性があります。
また、ネトコン応募のため、3月末まとめて更新します…!
ギリギリ〜!!




