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覚醒の鼓動2

 魔力を込めてみれば少しは効果があるだろうか。


 リーナはレイピアを握り直して魔物を見る。今は迷っている場合ではなく、可能性があるならやってみるしかない。


「クオン、ちょっと頑張ってくれる?」


「なにか手があるみてぇだな」


 受け止めながらチラリと見れば、リーナが魔力をレイピアに込めている。


「やってみなきゃ、通じるかわからないけどね」


 通じたところで何度もやれることじゃない。けれど時間を稼ぐだけなら十分かもしれないとも思う。


「いいぜ。やってみな!」


 攻撃を力一杯受け止めながら引き受けてやるとクオンが言えば、リーナは笑みを浮かべて魔力を集めた。


(やってみせる)


 彼の期待に応えたい。必ず魔物へダメージを与えるのだ。


 リーナがゆっくりとレイピアを構える。鋭い視線が魔物を射抜けば、察したようにクオンが魔物の隙を作ろうと攻めに転じた。


 下から力強く跳ね上げれば魔物の体制が少し崩れる。彼女にはそれだけで十分だ。


「やったか?」


 魔力の強さだけなら月光騎士団で一番のリーナ。いくら皮膚が厚かろうが、効かないはずがないと信じていた。


「無傷では、ないみたい」


 それでも致命傷を与えるにはほど遠い。これ以上のダメージを与えるには、エルフやハーフエルフが何人も必要だ。


「お兄様でもいてくれれば、もう少しやれると思うけど」


「ここであいつを思いださせるな!」


 あんな奴に貸しを作ったらどうなるかとぼやきながら受け止める幼馴染みに、一瞬怒鳴りそうになる。


 今は手段を選んでいる場合ではないだろ、と。


 どちらにしても、今は呼びにいくことができない。兄のフォルスは外回りだ。


(やっぱり、クロエとセルティ様を待つしかない)


 リュースは街中へも確認へ行っている。少し時間はかかっているが、今頃は二人の元へ連絡が届いているはずだ。


「あと少しだ…」


「うん…」


 彼も同じ考えだと察し、あと少しだけ耐えれば活路は開かれる。


「私達も手伝うわよ、団長殿」


「助かるぜ」


 背後の魔物が片付いたのだろう。弓を構えたシルビと、他の騎士を避難させたシアシュリトが頷く。


「魔力を込めればダメージは通るのよね」


 戦闘は見ていたのだろう。確認するように言えば、リーナが頷いて応える。


「私もシアも後方の方が得意だから、団長殿が頑張ってね!」


「お、おう…」


 あっさり言われるとさすがに苦笑いしかでない。言われるまでもなく、自分がすべて受け止めるつもりだったからいいかと剣を構え直す。


 仕切り直しだとクオンが攻撃を受け止める。リーナがクオンのサポートに回り、後方からシアシュリトとシルビが攻撃。


 二人とも魔力を込めた攻撃をしているが、リーナほどのダメージは与えられない。


(やっぱ、リーナにやってもらうしか…)


 しかし、腕に限界がきているのだろう。受け止めるのがきつくなっている。リーナが手伝ってくれてなんとか受け止めてるのが現状だ。


(一人でやれるか…やるしかねぇよな…)


 病み上がりに近い状態で、体力面も限界が近づいている。それでも、今を踏ん張らなければ活路は開かれない。


「リーナ! 全力で叩き込め!」


 三人でやれば、もっとダメージが与えられるはずだ。少しでもこの魔物を弱らせる。


 その意気込みで斬りかかる姿に、リーナも頷く。彼が頑張るなら自分も限界まで頑張るのだ。


 幾度目かの攻撃を受け止めたときのことだった。身体の奥底でなにかが脈打つ。目の前の風景が急激に変わったのだ。


 今飲まれるわけにはいかない。慌てたように唇を噛む。


「…っ」


 根性とも言うべき気力で戻った瞬間、魔物が凄まじい力で雷を放つ。


 辺り一帯に襲いかかる雷は、容赦なく身体を撃った。思わず膝をつくと、脇をすり抜けた雷が背後を襲う。


「キャァァァア!」


「うっ…」


 シルビの悲鳴が響き、シアシュリトの呻く声が聞こえてくる。


「クソッ…よくも…」


 少しばかりふらつきながら立ち上がれば、目の前の風景が歪む。


 なぜ今なのだと思う。頼むから、今だけは見せないでくれと。見ている場合ではないのだ。


 今やらなければいけないのは、魔物を退治すること。それだけだ。


 表情が歪む姿にリーナも異変が起きていると察する。こんなときにと焦る気持ちが、彼女らしからぬミスを招く。


「リーナ!」


 しまったと思ったときには遅い。槍の直撃を受け、身体は簡単に吹き飛ぶ。


 頬に血がついた感触と、地面に広がる赤い物。夢で見た光景が脳内にフラッシュバックし、クオンの目は見開かれる。


「リーナ…」


 身体の奥底から脈打つ音が激しくなった。なにかが込み上げていく。


「あっ…クッ…」


 剣が落ちる音など耳に入らない。激しく襲う苦しみと、視界に映る氷の塊。


『警告してやったのに、なに惚れた女巻き込んでるんだよ』


 見知らぬ声が聞こえてきた。知らないが知っている声だ。


 あれは、自分だと思う。遠い昔の自分なんだと、そう認識した。






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