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幼馴染み3

「落ち着いたんですか?」


 執務室に戻ってきた団長に、ツヴェルフは少しばかり驚く。夜までかかると思っていたのだ。


「いや、まだだ。けど、今は寝てるからな」


 リーナのお陰で抜け出せたのか、クオンはそのまま眠ってしまった。


 仕方ないので自宅まで連れていき、あとはリーナに任せてきたのだ。状態的にも当分起きないと思えたから、そのまま仕事へ戻ったというわけである。


「エラは?」


「あなたがいないと知るなり、執務室を出ていきました」


 なので問題はありませんと言えば、クロエは笑った。


「用心は必要だろう」


 それでも用心するべきだ。どこからか嗅ぎ付けて戻ってくる可能性はある。


 いくつか急ぎの仕事を手にすると、別室へと向かう。二人が内密に話す部屋が執務室の他にあるのだ。


 先に行っててくれと言われ、待つこと数分。ツヴェルフは食事を持って部屋に来た。


「お昼も食べていないでしょ」


「忘れていたよ」


 もうそんな時間になっていたのかと苦笑いを浮かべる。


「気にせず話してくれ」


 食事をしながら仕事を始めた姿に、この人はと思わずにはいられない。遅れを取り戻そうということなのだろうが、食事ぐらいゆっくり食べてもいいだろう。


「では、セルティ様から聞いた話をします」


 女王フィーリオナが即位してすぐ、メリシル国には予言が下った。


「この国へ、月神にして七英雄リオン・アルヴァースの魂を持つ者が転生する」


「転生…」


 動きが止まった姿に、珍しいこともあるものだと副官は思う。なにがあっても仕事の手は止めない上官なのだ。


 少し考えているような感じだが、話して問題ないだろうと続きを話す。


「当初はあなたが疑われたようです。優秀でしたから」


「あー…」


 否定はできない。おそらく、クオン以上に早く騎士へなることも可能だったと自覚してる。


 だからこそ、意図的に成績を落としていた。早く卒業すれば目立つとわかっていたから。見習いになってからは、落としていてもバレて役立たなかったのは別の話。


「それで、次がクオンか」


「はい。異常な早さでしたからね」


「確かに、な…」


 知識が深いのではなく、直感的に正解へたどり着く。戦闘能力も同じで、基礎を学ぶ前まではすべてが直感的だった。


 幼い頃から一緒だったからこそ、クロエはよく知っている。


 自分と似ていてどこか違う。それがクオンという幼馴染みだ。


 ハッキリとわからないことから、二人を集中的に見ていたと言われてしまえばさすがだとしか言えない。


 クロエは見られていたことにまったく気付いていなかったのだ。


「団長になってから、急激に伸びた……」


 決め手はそこかと視線が語りかければ、ツヴェルフは頷く。


「正確には、陛下の決め手ですね。セルティ様とイクティス様が決め手にしたのが」


 その名前には酷く驚いた。しかし、だからこその態度だとわかる。


 オーヴァチュア家には特殊能力者が生まれてくると言われていた。クロエも当然ながらそのことは知っている。


「フォルスがクオンを嫌う理由は、そこだったのか…」


 面倒だと思いつつ、ならばリーナにもなにかしらの能力があるのか、少しばかり気になった。


 普段の様子から彼女にあるようには見えない。しかし、あるかもしれない。


「で、転生だけなら問題ないだろ」


 気にすることではないはず。食事を終えて書類に集中するクロエに、この人はと本日二度目の感想だ。


 これで書類の内容も頭に入っているから、時折何者なんだろうと思う。


「予言には続きがあるのです。月神が覚醒すると、世界に危機が訪れると」


 そこで世界の危機と聞いて再び彼の手が止まった。


「それは、セルティ様達が動くわけだな」


 ただの転生ならおそらくほっとかれたのだろう。気にする必要などないのだから。


 しかし、そこに世界への脅威がついてくるとなれば話は変わってくる。事態を黙って見ているわけにはいかない。


 あの四人が慎重に見ていたわけだと納得する。


 現在の状況は、月神の覚醒が始まっている。少なくともそう判断しているのだ。


「記憶の再生、とイクティス様は言ってました」


「リオン・アルヴァースの記憶か…」


 遥か昔の英雄。その日々は平穏な日常ではないだろう。見続けるには辛いものかもしれない。


「ツヴェルフ、少し頼まれてくれるか」


「はい。リオン・アルヴァースに関する書物ですね」


「そうだ。こちらが知ってるのとそうでないので、また違う」


 言ってみたものの簡単ではないと思う。この国にあるのは、ほとんどがフォーラン・シリウスのものだから。


「さて、急ぎは終わった。また離席する。たぶん、今日は戻らない。なにかあったら、自宅に届けておけ」


「わ、わかりました…」


 まさか本当に終わらせるとは思わず、副官も苦笑いを浮かべる。


(この人の、この優秀さはなんなんだろう)


 本気で考えたが、頼りになる上官だと思うことにした。






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