幼馴染み2
歩きながら話を聞き、クロエの表情は険しくなる。なんとかしてやりたいが、夢が原因ではどうすればいいのかと思わずにはいられない。
さすがの彼でも、夢の中に入れるわけでもなく、夢を見ないようにすることも無理だ。
「クロエ様!」
「ツヴェルフ…」
会議が終わったのだろう。思ったよりリーナに時間を使ってしまったようだと知る。
「悪いが、しばらく任せていいか?」
「はい…ですが、あとで時間を作って頂けますか。セルティ様から、クロエ様になら話していいと」
リーナを見て近寄ってきた副官が、誰にも聞かれないよう小声で言う。
「わかった。クオンが落ち着いたら、一旦戻る」
おそらく、大切な幼馴染みについてだ。表情から読み取り、クロエは頷いた。
(なにがあるやら…)
副官の表情はいつもの冷静さがない。衝撃的な話を聞かされたのだろう。
騎士団の執務室へ戻っていく姿に、まずはクオンだと切り替えた。
そのまま仮眠室へと急げば、クオンは気がついていたようだ。
「クロエ…俺、なんでここに」
困惑したように見てくる姿に、いつもの強気な態度はどこにもない。
「会議中に様子がおかしいと、セルティ様が気絶させたからだ」
「そうだ、会議!」
しまったというように見上げるから、安心しろと言う。
「リュースでも問題ないとセルティ様が言ってた。お前のせいで、俺まで離席だ」
近くに椅子を運び座る姿に、クオンは小さくごめんと言った。
「悪かったと思うなら、すべて話せ。一応、リーナから多少は聞いたが」
「リーナ?」
クロエの視線を追いかけ、その姿を捉えたときハッとしたように視線が逸らされる。
「クオン…」
まともに表情を見れば、リーナが好きな生き生きとした瞳はない。顔色が悪いのも今ならわかるし、どことなく弱ってる。
気付いたときにはぎゅっと抱き締めていた。クオンの身体が強張るのがわかる。
(私がバカだった。クオンが苦しんでるの、知ってたのに…)
あの包みをすぐに開けていれば、こんなに弱ることはなかったかもしれない。もっと彼を支えてあげられたはず。
「リーナ、離せ…」
「いや。もう離さない…離さないから…」
強く抱き締める温もりにクオンが折れそうになった。しかし、それを止めるように視界が赤く染まる。
次の瞬間、力一杯突き放していた。
「リーナ!」
慌てて受け止めたクロエは、彼女が引き金を引く存在なのだと悟った。迂闊に近づけるべきではなかったと。
クオンが意図的に避けたのは、彼女をきっかけに見るなにかである。それをこの瞬間に察したのだ。
会議のときに見せた異変とはまったく違う。まるで怯えているような様子だ。
「あのときと…同じ…」
「リーナを避ける前か?」
頷くのを見て、ならば今見ているものがリーナを避けた原因だろうと思う。
「やめ…ろ…」
小さく呟かれた言葉に、ハッとしたように二人は見る。
「見たく…ねぇ…もうっ……」
目を閉じることすらできないのか。必死に振り払おうとしている。
「気絶させるか…」
あのときセルティが気絶させたのも、今なら納得できてしまう。こちらの声は届いていないのだ。
「クオン…」
必死に目を閉じようとしている。見ないようにしている姿に、リーナは胸へ抱き締めた。
(もう少し、見てるか…)
彼女となら乗り越えられるかもしれない。そうでなければいけないと思っていた。
強く抱き締めた瞬間、リーナは不思議な風景を見た。青毛の青年が血まみれの女性を抱いてる風景だ。
どう見ても女性は死んでいる。その表情は笑みを浮かべていて、穏やかだと思った。
満足しているのだろう。リーナでもそれぐらいはわかる。
「クオン…」
自分より前で幼馴染みが見ていた。これをずっと見ていたのだ。
今にも壊れてしまいそうで、優しく抱き締める。
「リーナ?」
なぜと言いたげに見れば、リーナも困惑したように見た。なぜこうなっているのか、よくわからないのだ。
「大丈夫。私とクロエがいるから」
なにがあっても離れない。こんな風景を見れば、その気持ちは強まる。
「なんでも抱え込まないで」
一人で抱え込むなと言えば、クオンの身体から力が抜けた。
.




