幼馴染み
仮眠室として使われる一室。そこにクオンを寝かせると、クロエはリーナを呼びに行く。
まずは執務室に向かってみたが、まだ出勤はしていなかった。そのため、自宅へと急いで向かう。
行ってみて、この数日会っていなかったことを反省した。
(フォルスがあからさまに睨むはずだ)
いつもの覇気がない。仕事と割りきることのできる彼女が、仕事に私情を持ち込んでいるのは明らかだ。
なにかがあった。それはクオンの異変と関わることだろう。
「リーナ、クオンが倒れた」
「えっ…」
驚いたようにクロエを見て、その表情はすぐに曇る。
(やれやれ。こっちが先だな)
セルティが言った言葉。それは、自分とリーナでクオンを支えろという意味だ。なぜだか、そう言われている気がした。
だから、彼女に立ち上がってもらわなければいけない。今のクオンを支えるために。
自宅にいてくれたことは、助かったかもしれない。ここなら誰にも聞かれず話をすることができる。
「なにがあった」
なによりも、彼女が本音で話せる場であろう。執務室では、絶対に話してなどくれない。
「……私、嫌われちゃったから」
「そんなわけ…」
あるわけがないと思う。常に一緒だったから知っている。クロエはずっと見てきたのだから。
二人は互いへ想いを告げることはしなかったが、同じ想いなのだ。
(あいつの異変と関係あるのか…)
気持ちが急に変わるわけない。だとしたら、クオンに襲う異変が原因でリーナをわざと避けている。
(巻き込まないため、だな)
バカと内心ぼやいたあと、彼女を動かせるものはないかと考えた。
避けている現実があるなら、違うと言ったところで聞いてくれるかわからない。
次の瞬間、机の上に乗っている包みが視界に入る。
「リーナ、これ開けないのか?」
瞬時に贈り物だと思えたのは、包みが贈り物に見えなかったからだ。
彼女が誰かに贈るなら、もっと女の子らしい包みになるだろう。自分がよく渡されるだけに、そういった物は見慣れていた。
さらに言うなら、リーナが贈り物をする相手がいない。家族にするぐらいだと知っていたのが、このときは役立った。
(なら、あれはクオンだ…)
彼が贈り物など珍しいが、いかにも店で普通に買っただけです、という包みはクオンらしいと思う。
「……」
チラリと視線を向けて、また戻す姿は答えだ。
「いつ、もらった? 避けられる前、だよな」
ならば、贈り物をして避けるのはおかしい。そのとき、なにかがあった。会議のときみたいなことだと、クロエは確信を持つ。
「開けてみろ。そこに、答えがあるはずだ」
真剣な表情で言えば、リーナもハッとしたようにクロエを見る。
瞳は不安げに揺らいでいて、包みを開けていいのか悩んでいるようだ。
「俺を信じろ」
絶対に彼女を傷つける答えはない。確信があったからこそ、力強く言って包みを渡す。
しばらく悩んでいたが、クロエの言葉に動かされたのだろう。リーナは包みを受けとるとゆっくり開けていく。
「あっ…」
「腕輪か…」
装飾品の類いをリーナは身に付けない。わかっていて贈っているはずだ。
(待てよ、シリウス家って確か…)
大切な者へ腕輪を贈る習慣があったはず、とクロエは思いだす。
「クオン…」
泣き出したリーナを見て、彼女もそれを知っているのだと気付いた。
落ち着くまで泣くリーナを見守る。これを渡したということは、嫌いになったわけではないと気付いたはずだ。
ならば彼女は大丈夫だろう。
「リーナ、お前が知る限りのことを教えろ。クオンの状態、たぶん限界がきてる」
泣き止んだ幼馴染みを見てクロエは問いかける。
「あの髪色はいつからなのか。顔色の悪さや、やつれ具合。普通じゃない」
「ご、ごめん…」
避けられてから、まともに顔を見ていなかった。顔色が悪いことにすら、リーナは気付いていなかったのだ。
「仕方ない。とりあえず、向かいながらなにが起きてるのか教えろ」
長くクオンを放置できないと、クロエは立ち上がる。
「行かない、なんて言わないよな」
「行くわ…」
力強い輝きが戻ったリーナに、彼は笑みを浮かべた。
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