騎士団会議3
気が抜けた瞬間、目の前の風景が変わっていた。しまったと思ったのだが、すでに遅い。
「エリル…」
最近見ていたセイレーンの女性が死ぬ夢ではなかった。
けれど、腕に抱かれたセイレーンは重傷だ。翼は焼かれ、付け根を残すだけ。背中も焼きただれていて、視線を逸らしたくなる。
「リオン…止めて…あげて……」
痛みに耐えながら女性は訴えかけた。彼ならできると。
「あなた…なら…でき…ますわ…」
「エリル…」
そこまで言い切ると、女性は気を失ってしまったようだ。ぐったりと横たわる姿に、青髪の少年が拳を握る。
「俺の…せいで……」
彼女を傷つけてしまった。致命傷になる傷を負わせてしまい、少年は不甲斐なさに悔しくなる。
力を過信していたのだと、いまさらのように気付かされた。
そして、目の前の光景に激しく葛藤する。女性が言う通り、止めてあげるべきなのだ。
「わかってる…」
そんなことは誰よりもわかっている。だけど無理だとも思う。
「俺に…やれって…やれって…言うのか…」
目の前に広がる風景がようやく見え、クオンですら言葉を失った。
これまでずっと仲良くしていた兄が、彼を守り続けた兄が凄まじい力で襲っている。
「無理…だ…俺には……」
その葛藤は理解できた。夢を見ることで、彼が兄をどう見ているか知っていたから。
どれだけ大切な存在で、失いたくないと思っているか見てきたのだ。
「エリル…それでも…俺がやるしかねぇんだよな……」
抱えた女性に呼び掛ける少年は、辛そうな表情をしていた。答えないとわかっていて、それでも問いかけたかったのだろう。
このままでは仲間が死んでしまう。虐げられてきた少年には、兄の次に大切な仲間だった。
(エルフの女性が、いねぇ)
少年が見渡すと、クオンにも周囲の風景がよく見えるようになる。
誰もがボロボロで、それでも仲間を止めようと必死に足掻いていた。
「少しだけ…待ってろよ……」
抱えていた身体を寝かせると、少年は転がっていた剣を手にする。
「聖剣よ…」
力を解き放つ言葉なのだろうか。剣を握り締め、覚悟を決めたように呟かれた。
すると剣は強く輝きだす。まるでクリスタルのような透き通った剣へと変化し、銀色の風が少年の回りに巻き付く。
「…退け、フォーラン」
それまで兄の相手をしていた一人のハーフエルフが振り返る。
(えっ…)
あれがフォーラン・シリウスなのかと、思わず見て驚く。どこかで知っている気がしたのだ。
「俺が…やる……」
小さく呟かれた言葉に、ハーフエルフの男性はその場を引いた。
剣を握ったまま俯く少年は、仲間が離れていくのを感じて覚悟を決める。これであとには引けないと。
「シオン…」
見上げた先にいる兄は、力が暴走している。同じ力を持つからこそ、それがよくわかる。
「止めて…やらなきゃな…」
暴走したまま放置するわけにはいかない。その気持ちだけが彼を立たせ、その気持ちだけが彼を戦わせた。
少年の痛みはクオンの心も痛める。一撃を打ち込む度に、彼の痛みを感じていた。
すべてが終わるまでに、さほどの時間はかかっていない。それでも永遠に続くほど長く感じ、早く終われと願いたくなる。
(終わった…)
ようやく終わったとき、痛みを感じなくていいと安堵したほどだ。
「シオン…ごめん……」
それは、なにに対しての謝罪だったのか。切ない声と共に、クオンの視界は暗闇に変わった。
騎士団長達による会議は、各騎士団の報告へと変わっていた。
陽光騎士団から報告を行い、この段階になると副官の発言も可能となる。そのため、場合によっては長くなるのだ。
(クオン?)
話を聞きながら視線を向ければ、セルティは彼の様子がおかしいと気付く。
まるでなにも見えていないようでなにかを見ている。
(なるほど。ああやって、リオン・アルヴァースの記憶を見てるんだな)
しかし、とも思う。突然やってくるそれは、彼を追い詰めるだけではないのか。
「セルティ、お前の番だぞ」
少し考えすぎていたようだ。フィーリオナに呼び掛けられ、思わず苦笑いが漏れた。
「お前らしくないな」
「悪かった。話す前に、ちょっといいか」
急に席を立ったセルティに、誰もがどうしたと言いたげに見る。
そして、その場にいた全員が気付く。クオンの様子がおかしいのだと。
峰打ちで気絶させる姿に、イクティスが苦笑いを浮かべる。
「気絶してた方が楽だろ」
周りがではなく、本人がという意味だ。わかったから、同意するようにイクティスが頷く。
「やつれてるな…」
自分が初めて見たときに比べ、酷くなっているのだろ。
(おそらく、身体も心も限界だな)
何百年も生きたわけではない。まだ十七年しか生きていない人間の子供なのだ。
どれだけ大人に囲まれてきたとしても、それで耐えられるものではないのだろう。
「クロエ、その副官はお前が信頼できる人材だな」
「はい」
「なら、クオンをお前に任せる。会議は副官がいればどうにでもなる。だが、こいつはお前とリーナじゃないと無理だろ」
なにを言うのかと戸惑っていたクロエは、言われた言葉と渡されたクオンの身体に、力強く頷く。
クロエが退室したのを確認し、どうするのかとセルティは見る。
「……黙っているわけにはいかないか」
フィーリオナもどうするのか考え、そう結論を出した。
「リュースはクオンといる限り知っておくべきでしょう。この先、なにが起きるかわかりません」
後押しをするように、ルーシュナも同意する。
「なによりも、あれを見られてしまいましたからね」
話して今後のために力を借りるべきとルーシュナが言えば、イクティスとセルティが頷く。
「あの、一体なにを…」
困惑したようにリュースが問いかければ、他の副官達も戸惑っている。
「これから話すことは、機密事項だ。この国だけではなく、世界レベルの話になる」
女王の言葉に、それぞれの副官は気を引き締めた。
そして、聞かされた内容の重さに呻くと同時に、自分達は関わることになると察する。逃れることは許されないのだと。
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