騎士団会議2
週に一回の騎士団会議。城に各騎士団の団長と副官一名、女王で行われるものだ。
月単位で予定は決まっているので、話す内容は翌月の予定を決めたり急ぎの案件だったりで、何事もなければ長くはかからない。
団長としても騎士としても一番下であるクオンは、必ず一番に行くようにしていた。
「おはよう、クオン」
その辺りは彼も同じ考えで、同じぐらいか少し遅いぐらいに流星騎士団のクロエ・ソレニムスがやってくる。
「おはよう」
なるべく視線を合わせたくなく、チラリと見て挨拶を返す。
「…どうした? 顔色悪いぞ」
「どうもしねぇよ」
悟られたくなかったからわざと視線を逸らしていた。けれど、彼にはまったく通じなかったようだ。
「気のせいだろ」
誤魔化そうとした瞬間、額に触れる手。席につかず近寄ってきたのだ。
少しだけ見上げれば、真剣な表情で見ている。滅多に見ない表情だ。
「熱はないみたいだが、体調が優れないなら無理はするなよ」
彼に言えば解決するのだろうか。そんなことを考えている自分に、酷く驚く。
相当参っているのだと改めて自覚してしまったほど。
「休む余裕がないわけじゃ、ないよな」
「はい。いざとなれば私がやります」
確認するように副官へ視線を向ければ、リュースが問題ないと言うように答える。
「ならいいんだが。なにか問題があるなら言えよ」
頭を撫でるクロエに、クオンは昔を思いだす。
まだ幼かった頃は対等な関係ではなく兄だった。兄弟のいないクオンにとって、誰よりも頼りになる存在だったのだ。
ふとした瞬間にそれを思いだす。彼はいつまで経っても兄なんだと。
クロエが席につくと、タイミングよくセルティとイクティスが部屋にやってきた。
イクティスの陽光騎士団は、副官の一人がフォルス・ノヴァ・オーヴァチュアだ。会議には彼が参加している。
席が隣なだけに、鋭い視線が刺さるのを感じていた。原因がわかるだけにクオンも黙って受け入れる。
(リーナを避けてるって、フォルスにはいいことじゃねぇのかよ)
しかし、リーナに近寄ると嫌な顔をするフォルスだ。これは彼にとっていいことではないのだろうか。
思わず考えてみて、ため息が出そうになる。やっぱりめんどくさい奴だと思ったのだ。
「フォルス、あからさま過ぎだよ」
「…すみません」
苦笑いを浮かべてイクティスが言えば、鋭さが少しばかり和らぐ。これで普段通りの態度だった。
同じように苦笑いを浮かべていたセルティは、外から誰かが来る気配に副官を見た。
聖虹騎士団の副官エイス・シュヴェルトがすぐさま動き、女王フィーリオナと妹ルーシュナを迎え入れる。
「待たせたか?」
いつものことだが、四人は集まるのが早いと思うフィーリオナ。
「ついさっき来たばかりだ。シュナ、おはよう」
「クスッ。おはよう、セルティ」
無表情でフィーリオナに言えば、ルーシュナには笑みを浮かべる。
「扱いが違いすぎるだろ」
「安心しろ、騎士としてはしっかり仕えてやる」
この一月、このやりとりを繰り返していた。それだけに、誰もが慣れたように見ている。
「騎士として無礼だろ」
「そんなことはない。ルーシュナ様、そろそろ始めましょうか」
「私が王だ!」
なぜなら、ある程度やれば勝手に落ち着くと学んだからだ。
落ち着けば、そこからはイクティスが仕切る場となる。女王も参加しているが、基本的には騎士団の会議。四人の団長が話す場なのだ。
「まずは今月の合同訓練だね。日程の変更はなし。予定通り、五日後に行うよ」
予定の確認とイクティスが話しだし、会議は始まった。
「今回はどこだったか?」
「流星騎士団と聖虹騎士団ですよ、陛下」
年間で組まれているが、他の政務で覚えていられない。別段、彼女が覚えている必要もないのだ。
「そうだったか。その日は、城内警備はどちらだ?」
四つある騎士団。二つが合同訓練をすれば、普段と変わった動きをする騎士団もでる。
「城内は月光騎士団が引き受けることになってます」
クオンが答えれば、フィーリオナの表情が微かに変わった。彼の異変を感じ取ったのだ。
触れていいのか悩んだが、察したようにセルティが視線を向ける。それだけで触れない方がいいと考えるのをやめた。
「珍しい割り振りだな」
普段ならこの場合、陽光騎士団だろとフィーリオナは言う。
「たまにはいいかとな。陽光騎士団も外回りがしたいだろ」
「そうだな」
逆に言えば、一番ハードである月光騎士団もたまには楽をしたいだろ、と思った。
それに、タイミングがよかったかもしれない。今のクオンを外へは出せないと、フィーリオナは視線を向ける。
(一段と、髪色が明るくなったな…)
さすがに気付かれるだろう。彼の副官が気付かないわけないし、幼馴染みも同様だ。
クロエの視線はずっとクオンに向けられている。気になっている証だと思うが、これならなにかあっても支えてくれるだろう。
合同訓練について話が続けば、さすがにクロエの視線も逸れた。今回は先月に続いて流星騎士団が参加するからだ。
ずっと見られているのを感じていただけに、クオンはホッとする。
(三人はさすがにな…)
一人は言うまでもなく、鋭い視線を投げつけるフォルス。二人目は心配そうに見ている、背後に立つ副官。
そして、なにかを探るように見ていたクロエ。幼馴染みがなんでもないと言ったことを信じていないのは、想定内の出来事だ。
(あいつ、だもんな…)
自分をよく見ている。クロエとリーナだけが、よく見ていて気付いてくれるのだ。
とても助けられていた。二人には感謝していたが、それでもこれは言えない。
言ってもどうにもならないと思っていた。夢が相手じゃ、手が出せないものだと。半ば諦めていたのも事実だった。
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