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マンションごと転生したけど、住人仲が悪いから協力できるか微妙  作者: 花房ジュリー
第一章 前世の記憶を取り戻したけど、活かせる知識が無い
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三人目の転生者

翌日ジャスミンは、久々に爽快な気分で目覚めた。昨日自分で作ったつまみ類は、実に美味しかった。さぞ酒が進むかと思いきや、つまみでお腹が膨れたジャスミンは、それほど飲めなかったのだ。さらには、胃を満たしたおかげか、酔いもさほど回らなかった。これまで泥酔していたのは、空腹で飲んでいたからかとジャスミンは納得した。


‘こうして朝から活動もできるし、やっぱりおつまみ、最高!’


パスカルの元へは、アンヌという侍女を伴って行くことにした。以前、占ってもらった経験があるのだという。


「恋の相談をしたのですけれど、とても親身になってくださいましたの。厳かで威厳もおありですし、頼もしいですわ」


アンヌは、そんな風に語った。


「それで、占いは当たったの?」


そう尋ねると、アンヌは首をかしげた。


「まだ何とも申せませんわ。様子を見ないことには、わかりかねます」


とは言っても、人気があるということは、きっと当たるのだろう。果たしてパスカルの館に到着すると、長蛇の列ができていた。市場に比較的近い、古い屋敷だ。


「領主夫人がお越しだと伝えましょうか?きっと優先していただけますわ」


アンヌはそう提案してくれたが、ジャスミンは断った。


「ちゃんと並ぶわ。特別扱いはして欲しくないの」


そして、待つこと一時間半。ようやくジャスミンの順番がやって来た。まずはアンヌが部屋に入り、名乗る。すると部屋の中からは、焦ったような声が聞こえてきた。


「何と、辺境伯夫人がお越しだと?どうして言ってくれないんですか。最初にお通ししましたのに」


「いいんですよ、パスカル先生」


言いながらジャスミンは、部屋の中をひょいと覗き込んだ。パスカルは、豪華な机でふんぞり返るがごとく座っている。その顔は……、果たしてあの工藤だった。


「これは失礼しました、ご夫人。って、ええっ」


パスカルは、ジャスミンの顔を見て口をパクパクさせている。どうやら前世でのジャスミンの顔を覚えていたらしい。


「アンヌ、外で待っていてちょうだいね」


アンヌを出て行かせて二人きりになると、パスカルは呆れたようにかぶりを振った。


「八階の女子大生じゃないですか。あなたも、転生していたとは」


パスカルは立ち上がると、行ったり来たり歩き始めた。


「なるほど、見えてきましたよ。大学病院の医師だった私がどうして占い師などにと訝っていたが、これで納得です。そこら辺の女子大生が、領主夫人に転生するんですからね。要は、前世とは反対の立場に変わるということでしょう」


思い切り馬鹿にされた気がして、ジャスミンは思わず口を尖らせた。


「先生、性格は引き継がれるみたいですね」


「ああ、そうかもしれませんね。少なくとも人望は相変わらずのようです。前世では多くの患者が、先生、先生と慕ってくれたものですが。今もご覧の通り。あの長蛇の列をご覧なさい」


パスカルが得意げに、廊下の方を指す。ジャスミンの嫌みは通じなかったようだ。


‘まあ、病院て待たされるものね。そこだけは一緒かしら’


「さて、あなたのお悩みは何です?」


いささか居丈高な物言いで、パスカルが尋ねる。そうだった、とジャスミンは思い出した。


「先生。セルフォシアとダールヴィランドの関係が改善し、貿易を行える未来は来るのでしょうか」


「なるほど。見てしんぜましょう」


おもむろに頷くと、パスカルは球形の図を広げた。よくわからない言葉や記号がたくさん記載されている。パスカルはそれを眺めて頷くと、何やら専門用語をまくし立て始めた。そして、こう締めくくる。


「両国のたゆまぬ努力により、二国間の関係は、今よりは改善するでしょう。貿易は、各国の努力次第ですね」


専門用語の羅列に、曖昧な結論。医者の説明を聞いているみたいだなあ、とジャスミンは思った。


「はあ、ありがとうございました。ところで先生、私以外の前世の方々には会われました?」


「理事長さんには会いましたよ。もう一人の、あの不必要に丁寧な女性とはまだですね」


「片山さんですね。彼女の居場所、教えていただけます?」


ジャスミンは、身を乗り出した。ギョームに続き、パスカルともやはり馬が合わない。片山も同様かもしれないが、転生した最後の一人として、一応会っておきたかったのだ。


「では、占いにて導き出しましょう」


パスカルが、またもや図表を広げる。ややあって、彼は大きく頷いた。


「わかりましたよ。あの女性は現在バルバラというお名前で、ジレット邸にお勤めです」


「ありがとうございます」


礼を述べながらも、ジャスミンは内心思った。


‘これって、ギョームさんから聞いてた情報なんじゃ?占う必要、あったのかしら……’


「二つ占いましたので、料金は倍いただきますよ。あっ、それから、市場の開始時間を遅くしてもらえませんかね。この屋敷は市場に近いので、朝から騒々しくて」


「はあ!?先生個人のご都合で、市場の時間なんて変えられませんよ」


突如飛び出したクレームにジャスミンは目をつり上げたが、パスカルは当然といった様子だ。


「領主の責任ですよ、これは!」


クレーマー気質も、健在か。ジャスミンは、札を叩きつけた。


「はい、料金です。それから、そのご要望には応じられませんから!」


まったく、とジャスミンは内心ぼやいた。前世の知り合いと仲良くやっていくのは、今のところ無理そうである。


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