エビアボカド最高
屋敷へ戻ったジャスミンは、厨房にこもった。
「奥様に、そのようなことをさせるなんて。お夜食くらい、私どもがお作りしますのに」
ウードはひどく恐縮したが、ジャスミンは自分で作ると言い張った。
「正餐の準備だけで大変でしょう?あなたたちは、休んでいてちょうだい」
使用するのは、購入したばかりのアボカドだ。幸い厨房にはエビの在庫があったので、オリーブオイルで一緒に炒めて、ガーリックで味付けする。ズッキーニは明日に回すとして、後はチーズにペッパーを振りかける。これで、今夜のつまみが二品も完成した。
‘美味しいお酒とおつまみが待っていると思うと、やる気が出てくるわね!’
がぜん意欲が沸いてきたジャスミンは、作った夜食を保管すると、書庫へ向かった。ウードと話していて、自分は勉強すべきだと思ったのだ。ギョームのように些末なことまで知る必要は無いだろうが、最低限、国や領地のことは知っておくべきだろう。
約二時間、ジャスミンは本を読みふけった。まず学んだのは、ここオリオール辺境伯領と、隣の領地・サロー侯爵領のことだ。オリオール領は海に面しているため、海産物が豊富に獲れる。だから先ほども、エビの在庫があったのだ。対するサロー領では、米の栽培が盛ん。海産物を輸出する代わりに、米を輸入できないかとジャスミンは考えた。
‘理論上は、簡単に実現できそうなんですけれど……’
サロー領は実は、ジャスミンの実家である。オリオール領とは長年の間、境界を巡るトラブルから関係は悪かった。いい加減和解しようと計画されたのが、ジャスミンとオリオール辺境伯・ロランとの縁談だったのだ。だが結婚が実現したとはいえ、そう上手く運ぶとは到底思えなかった。
結婚式のその夜、ロランがジャスミンの部屋を訪れることは無かったのだ。それ以降も彼は、仕事を理由に家を空けてばかりである。たまに帰ったとしても、ジャスミンとは顔を合わせようともしない。彼にとってこれは完全な政略結婚で、妻などお飾りに過ぎないのだろう。
‘でも、お米はゲットしたいわ!’
ジャスミンは、拳を握りしめた。米が入手できれば、リゾットを作れる。ガーリックたっぷりのチーズが入ったリゾットを想像して、ジャスミンはよだれが垂れそうになった。さぞや、ワインと合うに違いない。
‘美味しいおつまみのためよ! 今度ロラン様が帰られたら、お米の件、打診してみましょう’
とはいえせんべいの実現は難しいだろうな、とジャスミンは思った。隣国ダールヴィランドは大豆の生産が盛んだが、セルフォシア王国とは数十年もの間、緊張関係にあるのだ。原因は、国境を越えてダールヴィランドからやって来る魔物たちや盗賊団を、同国が放置することにあった。だからセルフォシアは、自らそれらを討伐しなければならないのだ。ジャスミンの夫ロランも、まさに現在、招集されて魔物討伐へ出かけている。
‘大豆を輸入できる日なんて来るのかしら……、あ、そうだわ’
ジャスミンは、ふと思いついた。よく当たる占星術師だという、パスカルに占ってもらってはどうだろう。あの工藤がどうしているのか見てみたい思いもあった。
‘明日、早速伺いましょう’
ジャスミンは大きく頷いたのだった。




