転生者と遭遇
ギョームという塔守は、前世で同じマンションの住人だった安西と、うり二つだったのだ。
‘いや、安西さんがこの世界にいるわけ無いし!きっと、他人のそら似でしょう’
そう自分に言い聞かせようとしたジャスミンだったが、どうやら事態は違うようだ。ギョームの方も、口をあんぐりと開けてジャスミンを凝視している。そして、こう言い出した。
「すみませんが、ご夫人と二人で話をさせてもらえませんか」
「なっ……、無礼な」
ウードは気色ばんだが、ジャスミンはそんな彼を制した。
「いいのよ。きっと重要な報告でもあるのでしょう。馬車に入れてあげて」
「はあ……、それでは」
不審そうにしながらも、ウードは馬車を降りた。代わって乗り込んできたギョームは、二人きりになるなりジャスミンを指さした。
「おい、どうなってんだ!何でたかが女子大生のあんたが、辺境伯夫人なんだよ!」
やはり安西はこのセルフォシアに転生していたのか、とジャスミンは驚いた。
「私に言われても、知りませんよ!気がついたらこうなってたんだから、仕方ないでしょう!」
「ったく……。ああでも、納得か。噂じゃあ、辺境伯夫人は飲んだくれで、昼過ぎまで寝てるとか。ヒールを響かせる無神経な小娘と、通じるものがあるな」
「しつこいですよ!」
ジャスミンは、目をつり上げた。
「ところで安西さんも、前世の記憶を取り戻した系ですか?この世界では、ずっと塔守を?」
ウードは新人と言っていたな、とジャスミンは思い出した。ギョームが、かぶりを振る。
「いや、前はあるお屋敷で門番をしていた。抜擢されて塔守になったのさ」
何と、とジャスミンは笑いをこらえた。リアルに『門番』をしていたとは。自分の酒好きといい、前世の性格や趣味は引き継がれるらしい。
「なるほど……。ということは、工藤さんや片山さんも、ここに転生してるかもしれないってことですよね」
工藤は今世でも医者だろうか、などと考えていると、ギョームはフンと鼻を鳴らした。
「知らないのか。工藤さんは、占星術師として活躍してるさ。よく当たるパスカル先生って、領内じゃあ評判だよ」
へえ、とジャスミンは目を見張った。医者だった工藤が、占い師とは。『先生』と呼ばれる点だけは共通しているけれども。
「それから片山さんは、とあるお屋敷で教育係をしてる。礼儀作法が過剰に丁寧だからって、抜擢されたらしい」
‘『丁寧おばさん』はやっぱり丁寧なのね。それが評価されて良かったこと’
そう思っていると、ギョームはぼそりと呟いた。
「『丁寧おばちゃん』にはピッタリの職業だな」
プッと噴き出しそうになるのを、ジャスミンはかろうじてこらえた。どうやら人間、思うことは同じらしい。
「しかしあんたは、領主夫人のくせに無知だな。そんなんじゃ、そのうち旦那に愛想を尽かされるぞ」
前世と変わらない偉そうな口調で言いながら、ギョームが肩をすくめる。ジャスミンは、カチンときた。単に自分が、嗅ぎ回るのが好きなだけではないのか。
「放っておいてください。私たち夫婦の問題です!もうそろそろ馬車から降りてください。私は、屋敷へ戻らないと」
「ハイハイ。じゃあ、これだけは報告しとくぞ。市場の肉屋の女店主は、香水がきつすぎる。食べ物商売で、あれは無いだろう」
報告とは、それだけか。相変わらずの重箱の隅をつつくような話題にジャスミンはうんざりしたが、去ってくれるのはありがたい。適当に返事をして、ジャスミンはギョームを馬車から降ろした。
‘一緒に転生したからと言って、心を通わせられるわけじゃないわね’
しょせんは気が合わなかった者同士だ、今世も同様だろう。ギョームのことは放っておくことにして、つまみ作りに専念しようとジャスミンは考えたのだった。




