半年後
それから約半年後。ジャスミンは、感慨深い思いで、大豆畑に佇んでいた。
‘ついに、大豆が手に入ったのね……!’
この土地は、正式に潔白が証明されたロランが、国王シャルル三世から褒美として分け与えられた領土である。やはりナナは、ダールヴィランドのスパイであり、嘘の証言をしたのであった。
スパイの目的は、ジャスミンを偵察することだった。というのも、ダールヴィランドは魔物作戦を仕掛けるに当たり、魔物が香辛料に弱いことを懸念していた。そんな折、オリオール領主夫人が香辛料に詳しいと偶然知り、探ろうと考えたらしいのである。
懸念は的中し、魔物は香辛料を前に全滅した。ダールヴィランドは、ロランとジャスミンにひどく憤り、仕返しとして二人を陥れようと画策したそうなのである。
そしてそれらの背後には、意外な人物がいた。王弟ブノワである。外交を担っていた彼は、以前からダールヴィランドと通じていたのだ。これまで魔物が容易に侵入してきた背景には、彼の手引きがあったのである。
こうしてブノワは投獄された。そしてシャルル三世は、当初の予定通り、ロランとジャスミンに褒美を与えることを決定したのであった。
ロランには領土が与えられたが、ジャスミンは物品の代わりに、大豆の種と栽培法をダールヴィランドから入手することを希望した。醤油を作り、かねてからの夢であるせんべいを実現するためである。
意外にもダールヴィランドは、すんなりと提供してくれた。武器となる魔物が全滅し、ソイザウルクアからも見放された今、セルフォシアに従うしかないと考えたようなのだ。
こうして、輸入には至らなかったものの、セルフォシアの各地で大豆の栽培が始まった。ロランは褒美としていただいた領土を提供してくれたので、ジャスミンはそこを、大豆栽培用の土地として使用させてもらった。そして半年、今やオリオール領では、ふさふさとした大豆のさやが順調に育っている。
「どうです、私の占いはまたしても当たったでしょう」
愛おしげに大豆のさやを撫でていると、背後から声がした。パスカルだった。
「‘セルフォシア・ダールヴィランド両国のたゆまぬ努力により、二国間の関係は、今より改善’。その通りでしたね」
「確かに、大豆が手に入るなんて、大進歩ですけど」
ジャスミンは、首をかしげた。どうも釈然としない。
「先生は、貿易は努力次第、なんて仰ってましたよね。こう言っちゃなんですけど、どっちに転んでも当たると思うんですけど」
「伝え方も、占い師の腕の見せ所です」
パスカルがふっふっと笑う。まあいいか、とジャスミンは思った。こんな軽口を叩き合えるようになったのは、前世より親しくなれた証拠だろう。
「ところで先生、今日はどうしてこちらに?」
「ギョームさんから聞いたんですよ。コンバインを見かけた、収穫が始まったのだろう、と」
相変わらず目ざといな、とジャスミンは苦笑した。
「お約束のものをいただかないといけませんからねえ。大豆が手に入れば、醤油が作れるんでしょう?」
パスカルが、目を輝かせる。助けてくれた四人への御礼を何にするか、ロランとジャスミンはあれこれと相談した。ヴィクトルには肖像画を任せることで合意したが、ギョーム、パスカル、バルバラの三人に何を贈るか、二人はなかなか決められなかった。そんな時、バルバラが漏らした‘前世のお料理が懐かしい’という言葉にヒントを得、せんべいを提案したところ、三人とも乗ってきた。そこでジャスミンは、自分の夢でもあった自作せんべいを、彼らに振る舞うことにしたのである。
「本格的な醤油じゃないですけどね。何せ、発酵や熟成には長期間かかりますから」
ジャスミンはひとまず、獲れた大豆を蒸して粉状にし、エピーソに混ぜ込んだのだ。こうして、限りなく醤油に近い液体が出来上がった。それを使ってせんべいを作り、プレゼントしようと考えている。
「お手並み拝見といきますよ」
「人様にお教えするくらいですから、期待しててくださいよ」
ジャスミンは、懐から時計を出して時間を確認した。
「もうこんな時間。授業があるので、失礼しますね」
そう、ジャスミンはついに、料理学校の校長となったのである。




