入手は絶望的
ジレット家に到着すると、バルバラが出てきた。ちょうどマチルドの指導を終えた所らしい。
「まああ、ジャスミン様!昨夜は、いかがでございましたか?もうわたくし、ほっとしておりましたのよ。ずっとこもりきりだったジャスミン様が、ようやく外出の決意をしてくださったのですもの。こちらの奥様、ミルラン夫人、いいえ、神様に感謝ですわね!」
「ええ、お誘いありがとう。でも、今は急いでいるの」
延々と喋り続けそうなバルバラを遮って、ジャスミンは執事を呼んだ。会いたいと言うと、執事はすぐにジレットを呼んで来たが、その返事はジャスミンを落胆させるものだった。
「アミュレでございますか。あいにく、ジャスミン様にお売りしたものが全てでございます。私の方で手持ちは無いのですよ」
「では、仕入れてもらえます?急ぐのです」
しかしジレットは、力なく首を振った。
「申し訳ございませんが、それは難しいかと。といいますのも、アミュレの仕入れ元は、ソイザウルクアなのでございます」
さすがに耳が早いと見えて、ジレットは意味ありげな表情を浮かべた。
‘ソイザウルクア……。ダールヴィランドと手を結んだという……?’
そんな国が、セルフォシアの商人に物を売ってくれるはずが無い。ジャスミンは、肩を落とした。
「わかったわ。でも、他に入手ルートがあれば、是非買ってちょうだい。それも、なるべく大量にね。至急、必要なのよ」
「かしこまりました。ご希望に添えず、申し訳ございません」
ジレットが、神妙に頭を下げる。ジャスミンは、早くも席を立っていた。頼みの綱であるジレットから入手できないとなると、配合を調べて自作するしかない。エピーソ同様、やってみるのだ。
ジャスミンは、急ぎオリオール邸へ戻った。ゴーチェ、ウード、アンヌはじめ、手の空いている使用人を書庫へと集める。そしてジャスミンは、本の山を指した。モロアから引き取った、香辛料や調味料の事典である。
「旦那様から、至急のご指示よ。この中から、アミュレという香辛料を探し出してちょうだい」
「かしこまりました!」
手分けして、探し始める。忙しくページをめくっていると、使用人の一人が、おそるおそる書庫に顔をのぞかせた。
「お忙しいところすみません、奥様。塔守のギョームさんがお越しです。門灯が明るすぎて眩しい家があるので、注意して欲しいとか」
「このクソ忙しい時にっ」
ジャスミンは、目をつり上げた。
「取り込み中なのよ。伝言だけ承って、お帰りいただいて」
「それが、もう一点ございまして」
使用人は、怯えた表情で続けた。
「以前綺麗になったモロア様のお屋敷ですが、再びゴミ……いえ本が散乱しているとか。何とかして欲しいとの陳情です」
「まったく……」
怒鳴りたくなったジャスミンだったが、ふと気づいた。そもそもこれら香辛料の本をくれたのは、モロアではないか。ジャスミンは、使用人に告げた。
「ギョームさんには、何とかしますと伝えて。それから、すぐにモロア殿を呼んでちょうだい」




