戦争勃発
その翌日、ジャスミンは久々に厨房に立っていた。作っているのは、焼きおにぎりだ。昨夜の居酒屋メニューに触発され、早速挑戦したくなったのである。
米にふんだんにペッパーをまぶし、よく混ぜてから握る。これらを十個ほど作って油で焼き、醤油もどきを塗ってさらに焼き色を付ける。これが成功すれば、肉や卵などの具材を仕込んでもよいな、とジャスミンは思った。
‘ロラン様がお帰りになったら、召し上がっていただくために……’
程よい焼き色になったところで、ジャスミンは火を消した。だが、ウードたちを呼んで試食してもらおうかと思ったその時。ゴーチェが厨房へ走り込んできた。何やら、深刻な表情だ。
「奥様。旦那様より、早馬にてお手紙が参りました!」
「貸してちょうだい!」
ジャスミンは、手紙をひったくった。早馬だなんて、ただごとでは無い。無性に嫌な予感がする。
案の定と言うべきか、手紙からは挨拶文が省かれていた。端的に、用件だけが綴られている。
‘ジャスミン、落ち着いて聞いて欲しい。ダールヴィランドはソイザウルクアと手を組み、我が国に宣戦布告した。今セルフォシアには、未だかつて見ない量の魔物が放たれている。やはり今回の魔物侵入は、ダールヴィランドによる意図的なものだったのだ。これまでも、恐らくそうだろう。魔物討伐のたびに各地の領主を招集していては、国は疲弊する。ダールヴィランドは、少しずつ我が国を弱体化させるつもりだったのだ’
ソイザウルクアというのは、同じくセルフォシアの近隣国だ。以前からダールヴィランドとは親密な様子だったが、まさか結託して敵に回るとは。目当ては恐らく石炭だろうな、とジャスミンは思った。サロー領を筆頭に、セルフォシア国内には、多くの炭鉱がある。これは、ジャスミンが勉強して学んだことだ。
‘今私は、最前線で戦っている。とはいえ、案ずるな。必ずや無事で戻るので、それまで領地をしっかり守っていて欲しい’
ジャスミンは、拳をぐっと握りしめた。ロランのために、しっかりと留守を守ろう。勢い込んで手紙の続きを読み始めたジャスミンだったが、そこには意外な言葉が綴られていた。
‘ついては、君がお守りとしてくれた布袋の中の香辛料。急ぎ、追加で送ってくれないか。いちいち布袋に詰めずともよいので、できるだけ多くの量を頼む’
はて、とジャスミンは首をかしげた。ロランは、お守りに頼るようなタイプとは思えないが。それに、頼るとしても、なぜ袋詰めしなくていいなんて言うのだろう。
‘よくわからないけど、必要ならお届けするしかないわ!’
ジャスミンは、すぐに収納庫を開けた。だが、アミュレの残りはごく少量だった。元々多く仕入れたわけではないからだ。
ジャスミンは、ゴーチェに命じた。
「この香辛料を、急いでロラン様にお届けしないといけないの。とりあえず今ある分を、早馬にて届けて差し上げて。それから、すぐに馬車を出してちょうだい。ジレット家へ向かうわ!」
「承知しました!」
ゴーチェは、真面目な表情で答えた。




