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マンションごと転生したけど、住人仲が悪いから協力できるか微妙  作者: 花房ジュリー
第六章 戦争勃発!旦那様は香辛料をご所望
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侮れない居酒屋料理

やがて到着した店には、店頭にほうきが掲げられていた。正当な酒場である目印だと、聞いたことがある。中に入ると、そこには前世の居酒屋とさほど変わりない光景が広がっていた。客たちは皆、ビールジョッキを片手に、陽気に騒いでいる。料理を楽しむ者もいた。店員たちは彼らに愛想を振りまきながら、せっせと酒や料理を運んでいる。


‘仕事終わりにお酒とおつまみでリラックスするのは、万国……万世界共通ね!’


前世の思い出が蘇り、何だか楽しくなってくる。ミルラン夫人は、ジャスミンらを隅の席へと連れて行った。目立たないようにという配慮だろう。


「いらっしゃいませ!五名様ですね。ご注文は?」


そこへ、明るい声がかかった。見れば、若い女店員が笑顔を浮かべている。目のぱっちりした、可愛らしい顔立ちだ。ジャスミンは、とりあえずビールを五人分、と答えた。


「ありがとうございます!」


元気良く返事をして、女店員が踵を返す。すると、隣席で飲んでいた男性が彼女に声をかけた。


「お、初めて見る顔だね。新人さん?」


「はい、ナナっていいまーす」


「可愛いねえ。頑張ってね」

 

男性客は、相好を崩している。これまた前世と同じような光景だなあ、とジャスミンは思った。


やがて、ビールが運ばれてくる。ミルラン夫人は、皆の顔を見回した。


「では、皆様。お伝えしていたように、今夜はジャスミン様……いえ、彼女を元気づける会ですわ……いえ、会よ。乾杯いたしましょう……いえ、するわ!」


クスクス、と夫人たちは微笑んだ。


「ミルラン夫人、ご自分で仰っていたのに」


「平民を装うって、難しいですわね」


小声でそう囁き合った後、一同はジョッキを掲げた。


「では、乾杯!」


カチンとジョッキを合わせた後、五人はビールをぐいと飲んだ。心地良い苦みと冷たさが、喉に染みていく。炭酸の刺激もたまらなかった。


「ジャスミン様、幸せそうなお顔!」


そんなジャスミンを見て、ジレット夫人はふふっと笑った。


「少しは気が紛れまして?」


「ええ、とっても。誘っていただいて、ありがとうございましたわ」


ジャスミンが微笑むと、四人はほっとしたように顔を見合わせ合った。


「よほど、お寂しかったんですのね。ジャスミン様は、本当に旦那様を愛してらっしゃるのね」


ミルラン夫人が、からかうように言う。だが別の夫人は、深刻そうな表情になった。


「そりゃあ辺境伯様ときたら、年中ご不在ですもの。お寂しくて当然ですわよ」


「魔物討伐も、頻度が多すぎますわよね。何とかなりませんのかしら」


もう一人の夫人が、眉間にしわを寄せる。ジレット夫人は、かぶりを振った。


「根本的なやり方を変えなければ、ダメですわよ。何しろ国王陛下ときたら、魔物が現れるたびに領主を招集することの繰り返し」


酒が回ってきたのか、彼女の声はいささか大きかった。


「まるで、対症療法ですわ。このままではダールヴィランドになめられて……」


「お客様。料理のご注文はいかがですか?」


そこへ飛び込んできた声に、五人はドキリとして顔を上げた。見れば、ナナと名乗っていた先ほどの店員が立っている。会話を聞かれなかっただろうか、とジャスミンはひやりとした。


「ええと、では、チキンの炒め物と、ピザ、アボカドとマグロの和え物、肉巻きご飯を。皆様、他に追加は?」

  

四人に声をかけながら、ジャスミンはナナの表情をうかがった。彼女は相変わらず愛想の良い笑みを浮かべていて、特に変化は見られない。心配しすぎだったか、とジャスミンは胸をなで下ろした。


「いえ、お任せで」


「信頼していますから」


四人が顔を見合わせ、にこりとする。ジャスミンは、改めてメニューを眺めた。来た甲斐があった。これらは、大いに参考になりそうだ。チキンの炒め物は、例の醤油もどきに漬け込んだら、焼き鳥風になりそうである。ピザは、具材を変えればお好み焼きに変身しそうだ。アボカドとマグロの和え物は、醤油もどきを追加するなどして、ユッケにしてみようか。  


‘何よりもっ。侮れない店ね。おにぎりをメニューにするだなんて’


ジャスミンは、‘肉巻きご飯’の項目をにらんだ。そこには、肉で巻いた三角状の米の塊が描かれている。輸入した米で、早速考案したか。ジャスミンとて、負けていられない。もっと酒に合う米料理を作らねば、とジャスミンは拳を握りしめた。


以上でとナナに告げて、メニューを閉じる。そこでジャスミンは、夫人の一人が何やらそわそわしているのに気がついた。彼女の視線は、店内の反対側に注がれていた。


「ねえねえ、皆様。あそこに座っている男性、素敵だと思いません?一人で飲んでらっしゃるのかしら」


夫人の言葉に、ジャスミンは振り返ってそちらを見た。そこで、あっと声を上げそうになる。カウンターで一人、ビールを飲んでいる男性がいる。それは、ヴィクトルだったのだ。


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