作れ!手巻き寿司
ついに、ロラン・オリオール辺境伯二十五歳の誕生日がやって来た。その日ジャスミンは、朝から厨房にこもっていた。
「海老は、どんどん殻を剥いてちょうだい。貝類の下処理も、頼むわね」
ジャスミンは、てきぱきとウードら料理人たちに指示した。自分はといえば、キノコを甘く煮込むかたわら、卵を焼いている。いくら海産物が名物のオリオール領とはいえ、少しは変わり具材を仕込みたかったのだ。前世で食べた手巻き寿司には、椎茸の甘煮や卵焼きが入っていたのを思い出しての挑戦である。
出来上がった卵焼きは、細く切っていく。マグロやイカの類もだ。寿司飯は、すでに完成している。昨夜のうちに仕込んでいた醤油もどきも、準備万端だ。
‘モロア殿から本をお借りして、よかったわ’
ジャスミンは、こぼれ出る笑みを抑えられなかった。彼から借りた本で調べたところ、大豆に風味が似ているという香辛料を発見したのだ。早速ジレット経由で取り寄せ、エピーソに混ぜてみた。こうして、ますます醤油に近い品が完成したわけである。
「みんな、協力ありがとう。では、巻いていくわね!」
具材の準備が終わったところで、ジャスミンは明るい声を上げた。すると、ウードが挙手した。
「奥様。巻くのを、手伝わせていただいても?」
「嬉しいけれど……。あなたたちには、正餐の支度があるでしょう?下ごしらえを手伝ってくれただけでも、十分よ」
ジャスミンは遠慮したが、ウードはやりたいと言い張った。
「正餐の準備なら、ほぼ整っておりますし。それに、巻く作業は楽しそうなのです。他の者たちもやりたいと申しておりますので、ご迷惑でなければ是非」
「魚や貝をご飯で巻くなんて、本当に面白そうです。その上に、さらに海苔を巻くと?」
「材料も色とりどりで、綺麗ですし」
料理人たちは、目を輝かせている。じゃあお言葉に甘えるかな、とジャスミンは思った。
‘みんなで巻く作業って、楽しそうですしね……’
「よし、ではまず、海苔にお米をのせて……」
皆に指導していると、ゴーチェが姿を現した。
「奥様、こちらの準備は整ってございます。そろそろお客様も到着なさる頃かと」
「ありがとう。悪かったわね、任せきりにして」
ジャスミンを寿司作りに専念させるため、誕生パーティーの準備は、ほぼゴーチェが取り仕切ってくれたのだ。申し訳無く思ったジャスミンだったが、ゴーチェはにこにこしている。
「とんでもありません。奥様はお料理作りを口実に、モロア邸から大量の本を引き取られました。おかげで屋敷が綺麗になったと、近隣からは喜びの声が上がっております。塔守のギョーム殿も、おとなしくなりました。自らを犠牲になさって、領内のために尽くす精神!まさに、領主夫人の鑑でございます」
本は、自分が読みたくて引き取っただけなのだが。すっかり誤解したゴーチェは、瞳を潤ませる始末だ。
「ですのでわたくしゴーチェも、本日は頑張らせていただきます!お客様をお迎えに行って参りますね」
張り切りながら、ゴーチェは出て行った。




