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マンションごと転生したけど、住人仲が悪いから協力できるか微妙  作者: 花房ジュリー
第五章 醤油作りを頑張ったら、ゴミ屋敷が片付いた
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不思議な調味料

その日ジャスミンは、茶会に出席した夫人たちを見送っていた。


「ご夫人方、お越しいただきありがとうございましたわ。……そして、マチルド嬢も」


ジャスミンは体をかがめると、少女に微笑みかけた。ジレット家の令嬢・マチルドは非常に食に関心があるらしく、是非参加したいと言い張ったのだそうだ。そのため特例として、母親と共に出席することを許可したのである。


「いいえ、こちらこそありがとうございました、ジャスミン様。出席をお許しいただき、光栄に存じます!」


マチルドは、ハキハキと礼を述べた。大げさな抑揚は、明らかにバルバラの影響だろう。だが幸いにも他の夫人たちは、子供ゆえのハイテンションと解釈したようだった。


「ほほ。ジャスミン様のお料理は、お子様にも人気ですのねえ。素晴らしいですわ」


ミルラン夫人が、にこにこと語る。いえそんな、とジャスミンは謙遜した。


「お料理を楽しむのに、大人も子供もありませんもの」


「ジャスミン様は、謙虚でいらっしゃるのねえ。これはもう、学校と呼んでもいいくらいですのに」


そう言うとミルラン夫人は、懐から何やら小さな包みを取り出した。


「何ですの?」


「こちらは、うちの料理人が使っておりました調味料ですの。料理人は亡くなった父親から受け継いだそうなのですが、本人もエピーソという名前しか知らず、配合などは一切わからないのだとか。ジャスミン様なら香辛料にお詳しいですから、もしやご存じかもしれないと思いまして」


 ジャスミンは、包みを開いてみた。黒に近い褐色の粉状の調味料だ。失礼と断り、一舐めしてみると、それはほんのり甘かった。何かを思い出させる……。そうだ、とジャスミンは気がついた。醤油に、どこか似ているではないか。


‘光が見えた気がするわ!’


「ミルラン夫人、こちら、いただいてもよろしくて?今はわかりかねますが、調べてみたいんですの」


 ジャスミンは、勢い込んだ。夫人があっさり頷く。


「もちろんですわ、何せ‘学校’ですもの。授業料にもなりませんが、いくらでも差し上げますわよ」


そう言ってミルラン夫人は、軽くウィンクしたのだった。


※※※


その晩ジャスミンは、エピーソを研究するべく、厨房にこもった。この調味料については、ウードをはじめとする料理人たちも、誰も知らなかった。書庫で調べてみても、文献は見つからない。そこでジャスミンは、配合を探ることは諦め、試しに煮詰めてみることにしたのだ。


幸いと言うべきか、最近のロランは、この時間、再び書斎にこもっている。昼間は肖像画のモデルとして時間を取られてしまうから、仕事が溜まっているというのである。そんなわけで彼と過ごすことが無くなったジャスミンは、夜のこの時間を利用することにしたのだ。


‘うん、やっぱり似ているわ!’


出来上がったスープを味見して、ジャスミンは大きく頷いた。薄めたり濃くしたりするうちに完成したそれは、限りなく醤油に近かったのだ。大豆の風味が足りない点を除けば、醤油と呼んでも差し支えないだろう。


‘ロラン様のお誕生日では、お寿司をこれに付けていただきましょう’


色とりどりの手巻き寿司を、この調味料に付けてロランに食べてもらう光景を想像して、ジャスミンは頬を緩めた。

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