米料理、人気爆発!
その後、オリオール辺境伯領とサロー侯爵領間の貿易は、スムースにスタートした。内陸サロー領の領民たちは、輸入された海産物に喜んでいる様子だ。オリオール領の領民たちも、目新しい米という食材に興味津々で、市場は米を買い求める客でにぎわっている。
ジャスミンの生活も、徐々に変化しつつあった。大きな要因は、ロランとの関係だ。夫妻は食事を共にするようになり、会話も増えた。ロランはジャスミンに対し、領内統治に関して意見を求めることも多くなり、ジャスミンは身に着けた知識で精一杯応えた。
試食会の方は、ロランの許可を得たことで、引き続き行われている。以前との違いといえば、バルバラが参加するようになったことだった。彼女はジャスミンと話したいらしく、足繁くこの館に通って来るのだ。
「ご夫人は、本当にお料理上手ですのねえ。リゾットだけでこれだけの種類が作れるなんて、素晴らしいですわあ」
その日もバルバラは、相変わらずのハイテンションで騒いでいた。厨房のテーブルに並んでいるのは、八種類ものリゾットだ。料理人たちも、興味津々で味わっている。
「おたくのご主人から買い付けた香辛料で味変してるだけですよ。材料の海産物は、我が領の特産ですし」
ジャスミンは謙遜した。これは本当で、アサリや海老、イカなどの海産物が豊富に入手できるおかげで、大して工夫しなくても多種類のリゾットができるのだ。さらに、オリーブやペッパーを用いることで、微妙に風味を変えている。
「そう謙遜なさらないで!先日いただいた焼きおにぎりも、絶品でしたわあ」
バルバラが勢い込む。まんざらお世辞でも無さそうで、ジャスミンは嬉しくなった。焼きおにぎりといえば醤油が必須だが、あいにくそれはまだ手に入らない。というわけでジャスミンは、塩とバターを用いた変わりおにぎりを作ってみたのである。子供にも好まれる味付けかと思い、バルバラにマチルドへの土産として持たせたのだ。
「マチルドお嬢様、美味しい美味しいって三個もお召し上がりでしたのよ。それに、旦那様と奥様も」
「まあ、ジレット殿や奥様まで?」
ジャスミンは、目を見張った。するとバルバラは、思いがけないことを言い出した。
「ええ。特に奥様は、おにぎりのレシピにたいそう興味をお持ちで。習ってみたいと仰っていましたわ。……それで思いましたの。ジャスミン様、お茶会を開かれて、領内の奥様方にレシピを伝授なさっては?」
「ええ!?お茶会?私が主催するのですか」
そんな真似はしたことが無い。びびりまくったジャスミンだが、バルバラはノリノリだ。
「お茶会くらい、どのご夫人も開かれていますわよ。ご領主夫人なら、なさって当然」
「いいですねえ。我々だけがレシピを独占させていただくなんて、もったいないですよ」
ウードたちまでが、賛同する。だがジャスミンは躊躇った。
「それは、そうかもしれませんけれど。……その場で、焼きおにぎりを振る舞うと?」
ジャスミンの知るお茶会の光景からは、ほど遠い。しかしバルバラは、あくまで乗り気の様子である。
「そうですわよ。お茶会の場で、奥様方にレシピを伝授なさればよろしいじゃありませんか。うちの奥様も、きっと喜びますわ。一番乗りで、駆けつけそう。……ああ、こうなったらもうお茶会というより料理学校ですわね!」
ジャスミンは思わず、飲んでいたペリエを噴きそうになった。一度ロランに嫌みで言われたことはあるが、まさか現実化しそうだとは。
「ご領主夫人の、お料理学校!考えただけで、ワクワクしますわあ」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいな、バルバラさん。まだ決めたわけでは……」
まずは、ロランの許可を取らないことには。そこへ、ゴーチェの声が聞こえた。
「奥様、試食会はそろそろお済みで?旦那様が、そろそろ出かけるとのことです」
今日はロランと共に、市場を訪れる予定なのだ。助け船が入ったことに、ジャスミンはほっとした。
「旦那様がお呼びですわ。その話は、また後日に」
バルバラに土産を渡すようウードに指示すると、ジャスミンはそそくさと厨房を出た。




