賛同者が続々と
オリオール邸へ戻ると、ゴーチェが困り顔で出迎えた。
「お帰りなさいませ、奥様。お疲れのところを申し訳ないのですが、塔守のギョームさんがお見えです。ご用件はわたくしが伺うと言ったのですが、奥様に直接ご報告があると申して、言うことを聞かないのです」
早速調べ上げたか、とジャスミンはにやりとした。
「大丈夫よ。領内を守っている塔守の報告ですもの、いつでも聞くわ。応接間でお待ちかしら?すぐに向かうわ」
「奥様……。何と領内思いで、お仕事熱心な方なのでしょう!では、そのように伝えます」
ジャスミンの言葉に感激したらしきゴーチェは、ハンケチで目頭を拭いながら踵を返した。急ぎ応接間に向かうと、果たしてギョームがほくほく顔で待ち構えていた。
「ご夫人、喜んでくれ!米の輸入に賛同する者のリストだ」
ギョームは、机に書類をどさりと置いた。
「違う味を求めるってことは、ある程度食に関心があるということだろ?わしは、全領民の市場への出入りと、その買い物内容を把握してるからな。美食家の屋敷を当たって料理人たちから意見を聴取したところ、案の定、米に興味を持っているとのことだ。これが、そいつらの一覧。領民全体の六割ってとこかな」
「案外、多いわね!嬉しいわ」
ジャスミンは、顔をほころばせた。
「それだけじゃない。そういう家の料理人は、ご主人の我が儘に振り回されてるからな。米食にすれば労力が節減できるぞ、と囁いたら、食いついてきた。見ろ、こっちは、是非とも米輸入を求める連中の署名リストだ」
ギョームが、別の書類を広げる。ジャスミンは、思わず拍手していた。
「素晴らしいわ!これは早速、夫に伝えます。きっと、塔守としての仕事ぶりをますます評価してくれることでしょう」
「いやいや、そんな。わしは塔守として、当たり前のことをしているだけさ。ま、この役割はわしにとって、前世からの宿命ってとこかな」
ある意味そうだな、とジャスミンは思った。
「ああそうだわ、ギョームさん。私、サローの実家へ戻っていたのですけれど。そこで、思いがけない人と会いましたの」
ヴィクトルの話をすると、ギョームは目を剥いた。
「へえ、もう一人転生者がいたとはね。10階の桐村か……。うん、よく覚えている。写真家だというから、派手に女なんか連れ込んでマンションの風紀を乱すかと心配していたんだけれど、意外に真面目な男だった」
「へえ、そうだったんですね。私は、お顔を知っていた、くらいなんですけど」
密かに憧れていたことは、内緒だ。同時に、ギョームが彼に難癖を付けなかったことに驚く。何しろ前世でのギョームときたら、どんな真面目な住人でも欠点を見つけて攻撃するのが常だったからだ。
「それにしても、事故だけでなく、事故後にそんなミスがあったとはなあ。エレベーター会社も保守会社も、選定に当たっては慎重を期したと思ったんだが。わしとしたことが、至らなかったなあ」
ギョームは、珍しく落ち込み始めた。
「よし。その分を、今世で取り返すぞ!ではご夫人、失礼。塔守の仕事に戻るのでな!」
「ええ、色々とありがとうございました」
ジャスミンは、丁重にギョームを見送った。その後、自室に戻る。アンヌを呼んで片付けを手伝わせていると、不意にノックの音がした。
「私だ。入ってもいいか?」
ドキリとした。ロランだったのだ。




