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マンションごと転生したけど、住人仲が悪いから協力できるか微妙  作者: 花房ジュリー
第三章 リゾット作りを目指していたら、夫と仲直りできた
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新たな転生者

どういうことだ、とジャスミンは頭を巡らせた。安西、工藤、片山たちがこの世界へ転生したのは、エレベーター事故で一緒に死亡したからだろう。だが桐村は、あのエレベーターには乗り合わせていなかったはずなのに。


‘それにしても、相変わらず素敵だわ’


ジャスミンは、ヴィクトルの顔をうっとりと見つめた。平民絵師という立場上、服装は以前と違って地味だが、端正な容貌は変わらない。柔らかそうな茶色の髪と同色の瞳、線の細い甘いマスクは、いかにも女性にモテそうだ。


「私は、これで失礼するわね。ではヴィクトル、今日もよろしく」


母が、席を立つ。父の客なのだから自分も退席しなければいけないだろうな、と名残惜しく思ったジャスミンだったが、そこへパタパタと足音がした。使用人の一人が、慌てた様子で顔をのぞかせる。


「お取り込み中失礼いたします、旦那様。王都より、急ぎの手紙が到着しました!」


「なに、それは直ちに対応しないといけないな」


父は、顔色を変えた。ヴィクトルの方を振り返る。


「ヴィクトル、すまないが少々待ってくれ。……ああ、こちらは娘のジャスミンだ。隣のオリオール辺境伯に嫁いでいて、今は帰省中なのだ。今度、娘と夫の肖像画もそなたに頼みたいと思っているから、よかったら娘と話でもしていてくれ」


「かしこまりました。僕のことはお気になさらず、どうぞごゆっくり」


ヴィクトルが、にこやかに答える。父が応接間を出て行くと、ジャスミンは思わずガッツポーズをしていた。


‘チャンスだわ。これで、二人で話ができる……!’


二人きりになると、ジャスミンは勢い込んでヴィクトルに話しかけた。 


「桐村さんですよね!?ほら、私を覚えていません?八階の小野です。同じマンションだったでしょ?」


「僕の名前を知っているの?君も、転生したのか?」


ヴィクトルは、ジャスミンの顔をまじまじと見た。やがて、ぽんと手を叩く。


「そういえば、マンションにこんな顔の女性がいたな。小野さんと言ったのか」


名前を覚えてくれていなかったことにやや落胆したものの、顔はかろうじて記憶に残っていたらしい。ジャスミンは、身を乗り出した。


「私と安西さん、工藤さん、片山さんはエレベーター事故で死んで転生したんですけど……。桐村さんは?あの時、同じエレベーターには乗っていなかったですよね?」


するとヴィクトルは、ははあという顔をした。


「エレベーター事故……、なるほどね。いや、僕は、普通にエレベーターに乗ろうとしたんだけれど。足を踏み入れたら、床が無かった。それで真っ逆さまに転落ってわけだ。おそらくは、即死だろう」


何と、とジャスミンは眉をひそめた。


「ではもしや……、事故の後処理中だったんでしょうか。それを知らずに乗ってしまった、と」


「点検中だとか、そんな札は出ていなかったからね。知らずに、普通に乗ってしまったんだよ。事故処理で、みな混乱していたんだろうな」


「お気の毒に」


言いながらジャスミンは、頭を巡らせた。


「それにしても、あのマンションのエレベーター絡みで亡くなると、みんなこの世界へ転生するってことですね。安西さんたち三人も、オリオール領にいるんですよ」


「いやいや、君らこそ気の毒だった……。しかし僕だけが違う領に転生したのは、時間と状況が違っていたからだろうね」


ヴィクトルは、思案するように顎に手を当てた。


「何はともあれ、同じ世界に転生できて嬉しいわ!私は、お隣オリオール辺境伯領の当主に嫁いでいるの。ジャスミンよ」


ジャスミンは、手を差し出した。よろしく、とヴィクトルが握手で応える。


「僕は、絵師のヴィクトル。少しは前世と共通点のある職業だな」


「そういえばヴィクトルさんて、前世は何をなさってたんですか?」


ジャスミンは、興味津々で尋ねた。


「フォトグラファーだよ」


ほほう、とジャスミンは内心うなった。芸能関連の職業ではないかと推理していたが、的中したわけだ。


「以前は、人も風景も色々撮っていたけれど、今も同じだな。何でも描くよ」


微笑んだあと、ヴィクトルは不意に真剣な顔になった。


「ところで、聞いてもいいかな?聞くつもりはなかったんだけれど、廊下を歩いていたら聞こえてしまった。米の輸出がどうとか」


「そうなんですよっ」


ジャスミンは、身を乗り出した。味方は多い方がいい。


「オリオール領から海産物を輸出して、サロー領からはお米を輸入するという計画を進めているんです。お米、是非食べたくて。ここでは、お米が食べられるんでしょう?羨ましいです」


だがヴィクトルは、微妙な表情になった。


「まあ、確かに食べられるけれど。はっきり言って、味付けがいまいちかな。同じメニューばかりだし」


そうなのか、とジャスミンは驚いた。


「それなら、ちょうどよかったです。私、調味料の研究をしていて。リゾット一つでも、色んな種類が作れるんですよ。海産物が手に入ったら、レパートリーはもっと増えるでしょう」


「海産物か。それと米……」


ヴィクトルは、ちょっと考えてから微笑んだ。


「今、最強の料理が思い浮かんだんだけれど。元日本人なら、絶対に好きなはずだ」


ジャスミンは、目を見開いた。


「もしかして……」


そう、とヴィクトルは頷いた。


「お寿司!そうなんですね?」


「どうだろう。作れるだろうか?」


「作ります。作ってみせます」


ジャスミンは、生唾を呑み込んだ。ビネガーさえあれば、何とかなるはずだ。


‘ビバ、寿司!また一つ、素敵なおつまみが増えるわ!’

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