占い再び
その日の午後は、パスカルの館を訪れることにした。今度はアンヌは連れずに、ジャスミン一人だ。
相変わらずの長蛇の列を辛抱強く待った後、パスカルの部屋へ通される。ジャスミンの顔を見た彼は、肩をすくめた。
「また、あなたですか。せっかくご主人がお戻りなのに、ここへ来られるなんて。よほど相手にされていないとお見受けする」
「余計なお世話です。まずは相談内容、聞いてくださいます?」
ジャスミンは、目をつり上げた。
「お隣サロー領との貿易話です。こちらからは海産物を輸出する予定ですが、あちらから何を輸入すべきか迷っておりまして。お米と他のもの、どちらが有益でしょう?」
「おや、思ったよりはまともな内容ですね」
口調はまだ慇懃無礼だが、パスカルの瞳からは、からかうような光が消えた。ジャスミンは、ここぞとばかりに身を乗り出した。
「だって夫は、パスカル先生の占いをたいそう頼りにしていますもの。重要施策の方向性をお示しして、オリオール領を繁栄に導くのは先生ですわよ?」
「それは、それは。では私も、身を引き締めないといけませんな」
パスカルは背筋を伸ばすと、前回同様、図表を広げた。しばし黙考した後、彼は頷いた。
「米が無難、と出ておりますな」
よっしゃあ、とジャスミンは飛び跳ねたくなった。
‘いや、待てよ。無難という程度では弱いかも……’
「他のものよりはマシということですか?」
「そうですな。重要資源の輸出は、あちらも慎重にならざるを得ない。結果、交渉が難航、と出ております」
十分な説得材料になりそうだ。ジャスミンは、ノートとペンをさっと取り出した。
「お手数ですが、今のお話を一筆書いてくださいませんこと?きっと夫は、大切にするはずです」
「それは名誉なことだ。是非書きましょう」
褒められ倒されて悦に入ったらしく、パスカルは嬉々としてペンを取った。だが、ノートに書き付けながら、彼はふとこう付け加えた。
「そうそう、‘根回しが重要’とも読み取れます。つまり、サロー侯爵領に早めに話を通した方がよろしい」
確かに、とジャスミンは目から鱗が落ちる思いだった。いくらロランとジャスミンがあれこれ言っていても、肝心の相手方がうんと言わなければ、貿易など始まらないではないか。
‘早速、実家へ帰るわ!’
いそいそと席を立とうとすると、パスカルが引き留めてきた。
「ところで夫人。先日陳情した件は、どうなってます?ほら、市場の時間のことですよ。うるさくて占いに集中できやしない」
お前一人の都合で変えられるかい、と怒鳴りたくなるのを、ジャスミンはぐっとこらえた。
「そうですわね。お困りでしょうけど、今は夫をせっつかない方がいいと思います。領内の施策についてもご相談するほど、パスカル先生を信頼している夫ですもの。下手に催促して、せっかくの信頼を失ってはまずいですわよ」
嫌ならお前が引っ越せ、と心の中で付け加える。
「それもそうですな!では、しばし待つとしましょう。吉報をお待ちしていますぞ」
「はい。では、ありがとうございました」
礼を述べるジャスミンの頭の中は、すでに帰省のことでいっぱいだった。




