増やせ!米輸入派
その時、ゴーチェが厨房に入って来た。
「失礼いたします、奥様。ジレット殿が、新しい香辛料のご提案に来られました。……それから、女性をお一人同伴されています。何でも、お嬢様の教育係だとか」
バルバラか。ジャスミンと話したそうにしていたから、ジレットにくっついてやって来たのだろう。そこで、ジャスミンは閃いた。
「教育係さんとは、この前親しくなったのよ。目的は私とのお喋りだから、小さい方の応接間にお通しして。それから、今作った料理を何点かお持ちして。……その、お料理に関心のある方なのよ」
先ほど作った料理は、前世風のものが多い。バルバラにとって懐かしい味ではないかと思ったのだ。是非食べさせてあげたかった。
‘ま、悪い人じゃないですしね……’
ジレットから数点の香辛料を購入すると、ジャスミンはバルバラの待つ部屋へ向かった。料理を提供すると、彼女はたいそう興奮した。
「まああ、ジャスミン様。わたくし、感動しましたわ!このお料理、前世で食べたお味に似ていますわね!」
「そうでしょう?バルバラさんに、召し上がっていただきたかったの」
バルバラの嬉しそうな様子に、ジャスミンはほっとした。
「やっぱり、前世で食べていた料理って、食べたくなります?」
「そうですわねえ……。これまでは、この世界での食事が当たり前でしたから、そうは思いませんでしたけれど。このお料理を食べたら、確かに懐かしくなりましたわ。和食も恋しいですわねえ」
「白いご飯とか?」
ジャスミンは、身を乗り出した。ええ、とバルバラが頷く。
「ご飯とお味噌汁、いただきたいですわ」
ジャスミンは、ほくそ笑んだ。
「バルバラさん。私、お米の輸入を目指していますの。この領内では入手できないので、お隣サロー領からいただけないかと。お味噌汁は……、少し難しいかもしれませんね。大豆は、ダールヴィランドの特産ですから。けれど、ゆくゆくはそちらも」
「まああっ」
バルバラは、目玉がこぼれ落ちんばかりに見開いた。
「ジャスミン様って、本当に博識ですのねえ!おまけに、そんな壮大な計画まで。こんな立派なご領主夫人、見たことがありませんわ。セルフォシア一ではございませんかしら!」
「バルバラさん、大げさですよ」
ジャスミンは言った。本心だ。
「まだ何も前進していませんもの。けれど、何か方法はあるはず。まずは、輸入賛成派を増やしたいと思っています」
うんうんと、バルバラは大きく頷いた。
「でしたら、ギョームさんを頼っては?彼、オリオール領内のことを知り尽くしてますもの。賛成派を増やすお役に立ってくれるかもしれませんわ。それに、何か有益な情報を得られるかも」
また嫌な名前が出てきたなあ、とジャスミンは思った。だが、彼が領内を知り尽くしているというのは真実だ。
「考えてみますわね……」
そこへ、ノックの音がした。ジレットだった。そろそろ帰らねばならないのだと言う。
「まあまあ、お名残惜しいですわあ、ジャスミン様」
「またいつでもいらしてください。……ああ、そうだわ」
ジャスミンはゴーチェに命じると、厨房からガレットを持ってこさせた。余ったジンジャーで作った品である。
「マチルドお嬢様に、お土産です」
「おお、わざわざありがとうございます」
「お嬢様、きっとお喜びになりますわ!ジャスミン様、本当に本当に感謝いたします」
二人は、何度も礼を述べて帰って行った。




