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第78話 約束

 二人は昔よく座っていたベンチへ腰を下ろした。


 夕暮れの公園。


 オレンジ色の光が優しく二人を包んでいる。


「静かだね」


 レナが微笑む。


「ああ」


「昔は毎日ここで遊んでたのにな」


「うん」


 二人は目の前のブランコを見つめる。


「なおくん」


「ん?」


「覚えてる?」


「ブランコ」


「どっちが高く漕げるか勝負したこと」


「覚えてる」


「俺、落ちたよな」


「ふふっ」


「泣いてた」


「泣いてない」


「泣いてたよ」


「絶対泣いてない」


 二人は顔を見合わせる。


 そして同時に笑った。


 しばらく笑い声が響く。


 やがて。


 静かな時間が流れる。


 風が優しく木々を揺らした。


「なおくん」


「ん?」


「今日誘ってくれてありがとう」


「俺も」


「レナと映画観れて楽しかった」


「私も」


 レナは嬉しそうに笑う。


「最近」


「なおくんといる時間」


「すごく好き」


 その一言に。


 直人の胸が少し高鳴る。


「レナ」


「ん?」


「一つ聞いてもいいか?」


「いいよ」


 直人は少し息を吐いた。


「この前」


「ラブステータスで」


「レナを検索した」


 レナは少し驚いたように目を瞬かせる。


「私?」


「ああ」


「でも」


「出てこなかった」


「レナ」


「ラブステータス」


「何ランクなんだ?」


 レナはクスッと笑った。


「え?」


「私?」


「登録してないよ」


 直人は目を丸くする。


「登録してない?」


「うん」


「好きな人いるから」


 その言葉に。


 直人の時間が止まった。


「好きな人……」


 小さく呟く。


 胸が締め付けられる。


 けれど。


 どうしても。


 一つだけ確かめたかった。


「レナ」


「ん?」


「もしかして……」


「幼稚園の時の約束」


「覚えてる?」


 一瞬。


 レナは驚いたように目を丸くした。


 そして。


 優しく微笑んだ。


「覚えてるよ」


 迷いなく答える。


「だから」


「登録してないんじゃん」


 その一言だった。


 直人の中で。


 今までの出来事が。


 一つに繋がっていく。


 幼稚園。


 一緒に遊んだ毎日。


 ――『大きくなったら、お嫁さんにしてね』


 あの日の約束。


 写真を撮りに行った日。


 服を選んでもらった日。


 二人で飲みに行った夜。


 映画。


 今日。


 全部。


 全部。


 繋がった。


「そっか……」


 直人は小さく笑った。


「俺」


「ずっと遠回りしてたんだな」


 レナは少し困ったように笑う。


「なおくんだから」


 その優しい言葉に。


 直人も笑った。


「レナ」


「うん」


 直人はゆっくりレナの前に立つ。


「俺」


「幼稚園の頃から」


「ずっとお前が好きだった」


「ラブステータスを始めたのも」


「お前に少しでも釣り合う男になりたかったから」


「筋トレも」


「バイトも」


「服も」


「ボイトレも」


「全部」


「レナに胸を張って会える自分になりたかった」


 レナの瞳から。


 一粒の涙がこぼれる。


「俺と」


「付き合ってください」


 レナは涙を拭きながら笑った。


「うん」


「私も」


「幼稚園の頃から」


「ずっと」


「なおくんが好き」


 涙を浮かべたまま。


 少しだけいたずらっぽく笑う。


「ねぇ」


「なおくん」


「ん?」


「あの約束」


「まだ有効?」


 直人は優しく笑った。


「ああ」


「もちろん」


 レナは一歩近付く。


「じゃあ」


「大きくなったから」


「お嫁さんにしてね」


 あの日と同じ言葉。


 でも。


 もう子どもじゃない。


 直人はゆっくり頷いた。


「約束する」


「必ず幸せにする」


 レナは嬉しそうに微笑む。


「うん」


 二人はそっと抱きしめ合う。


 そして。


 幼い頃には叶わなかった想いを。


 優しく唇に重ねた。


 夕暮れの公園。


 幼い頃に交わした約束は。


 ようやく。


 叶えられた。

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