第73話 ヘタレですか!
月曜日。
昼休み。
直人が学食へ入ると。
「先輩!」
結衣が笑顔で手を振った。
「こっちです!」
「おう」
直人が席へ向かう。
葵と栞も座っていた。
「おはようございます」
栞が軽く頭を下げる。
「おはよう」
直人が席に座った。
すると。
結衣がニヤニヤしながら身を乗り出す。
「先輩」
「ん?」
「土曜日どうだったんですか?」
「何が?」
「飲みですよ!」
「ああ」
「楽しかったよ」
「へぇ~」
結衣はさらに身を乗り出した。
「誰と行ったんですか?」
「レナ」
一瞬。
三人の動きが止まる。
「……」
「……」
結衣がゆっくり口を開く。
「レナさんと?」
「ああ」
「二人で?」
「ああ」
結衣は勢いよく立ち上がった。
「デートじゃないですか!」
「座れ」
直人が苦笑する。
「服選んでもらったお礼だ」
「理由なんて関係ありません!」
結衣はビシッと指を差す。
「二人で飲みに行った時点でデートです!」
葵も笑った。
「私もそう思う」
栞も静かに頷く。
「そうですね」
結衣はさらに追及する。
「で?」
「居酒屋行って」
「ああ」
「二軒目も?」
「行った」
「ほぉ~」
結衣の目がキラリと光る。
「家まで送った?」
「ああ」
「……」
結衣は黙る。
「……」
直人も首を傾げる。
「どうした?」
結衣は真顔で聞いた。
「それで?」
「それで?」
「家まで送って終わり」
シーン。
葵が吹き出した。
「ふふっ」
栞も口元を押さえる。
結衣はゆっくり天井を見上げた。
「先輩」
「ん?」
「ヘタレですか!」
学食中に響く声。
周りの学生が一斉にこちらを見る。
「だから声が大きい」
直人は苦笑した。
「だって!」
結衣は両手を広げる。
「二人で飲みに行って!」
「二軒目も行って!」
「家まで送って!」
「何もないんですか!?」
「何もない」
「信じられません!」
葵が笑いながら聞く。
「手くらい繋げばよかったのに」
「いや」
直人は頭をかく。
「タイミングがな」
結衣は大きくため息をついた。
「先輩」
「はい」
「恋愛偏差値低すぎです」
栞もクスッと笑う。
「そこが東條さんらしいですけど」
「褒められてる気がしないな」
その時だった。
「おはよう」
レナがトレーを持ってやって来た。
「レナさん!」
結衣が笑顔で手を振る。
「昨日楽しかったですか?」
「う、うん」
レナは照れながら頷いた。
「すごく楽しかった」
「ですよね!」
結衣はニヤニヤしながら直人を指差す。
「でも先輩!」
「家まで送って!」
「何もしなかったそうです!」
レナの顔が一瞬で赤くなる。
「えぇっ!?」
「ゆ、結衣ちゃん!」
「何聞いてるの!」
結衣は笑いながら肩をすくめた。
「レナさん」
「この人」
「ヘタレですよ!」
レナは直人を見た。
少し困ったように笑う。
「……」
「なおくんらしい」
その一言に。
直人は照れくさそうに笑うしかなかった。
学食には。
四人の笑い声が響いていた。




