第71話 もう一軒
食事も終わり。
二人は温かいお茶を飲みながら、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
「ごちそうさま」
レナが笑顔で手を合わせる。
「美味しかった」
「それならよかった」
直人は伝票を手に取った。
「じゃあ行こうか」
「うん」
店を出ると。
夜風が心地よかった。
駅前はまだ人通りが多い。
二人は並んで歩く。
どちらからともなく笑みがこぼれる。
「今日は本当に楽しかった」
レナが言う。
「俺も」
少し沈黙が流れる。
その沈黙さえ心地よい。
直人は歩きながら時計を見た。
まだ九時前。
「レナ」
「ん?」
「まだ時間ある?」
レナは少し驚く。
「あるけど」
直人は少し照れくさそうに笑った。
「もう一軒」
「行く?」
一瞬。
レナの目が大きくなる。
「えっ?」
「いいの?」
「ああ」
「せっかく二人で来たし」
「もう少し話そう」
その一言だけで。
レナの胸がいっぱいになる。
「うん」
「行きたい」
自然と笑顔になった。
二人は駅前を少し歩く。
「あっ」
レナが立ち止まる。
「ここ」
ガラス張りの落ち着いたバー。
店内から柔らかな照明が漏れている。
「雰囲気いいね」
「入ってみる?」
「うん」
二人は店へ入った。
「いらっしゃいませ」
カウンター席へ案内される。
隣同士に座る。
「なおくん」
「ん?」
「仕事以外でバーって来る?」
「いや」
直人は苦笑する。
「ほとんどないな」
「そうなんだ」
「今日はレナとだから」
「来てみようかなって思った」
レナは思わず直人を見る。
「……」
少しだけ照れたように笑う。
「嬉しい」
バーテンダーがメニューを差し出した。
「こちらがメニューになります」
二人はメニューを開く。
「いっぱいあるね」
「バーによって全然違うからな」
「なおくん」
「おすすめ選んで?」
「分かった」
直人は少し考える。
「甘いのが好きなら」
「これなんかどう?」
レナはメニューを覗き込む。
自然と肩が触れそうな距離。
近い。
けれど。
どちらも離れようとはしなかった。




