第66話 初めてのカクテル
個室へ向かおうとした時だった。
「そういえば!」
結衣が直人を見た。
「先輩!」
「ん?」
「もうカクテル作れるんですか?」
「ああ」
直人は頷く。
「もう普通に」
「お客さん相手に作ってるよ」
「えっ!」
結衣が目を輝かせた。
「本当ですか!?」
「ああ」
葵も驚いた表情になる。
「知らない間にそんなことまでできるようになったんだね」
「最近覚えた」
栞も静かに頷く。
「すごいです」
レナも少し驚いた表情になる。
「東條くん」
「カクテルも作れるの?」
「うん」
「ノンアルコールもあるよ」
結衣が勢いよく手を挙げた。
「先輩!」
「先輩の作ったカクテル飲んでみたいです!」
「私も」
葵も笑う。
「私も飲んでみたい」
「私もです」
栞も続く。
レナも少し照れながら。
「私も」
直人は苦笑した。
「ちょっと待って」
「店長に聞いてくる」
カウンターへ向かう。
「店長」
「ん?」
「友達に」
「ノンアルコールカクテル作らせてもらってもいいですか?」
店長は笑って頷いた。
「いいぞ」
「ありがとうございます」
「ちゃんと代金はもらうからな」
「もちろんです」
「じゃあ五人分な」
「はい」
直人はカウンターへ入る。
氷をグラスへ入れ。
シェイカーを手に取った。
カシャッ。
シャカシャカシャカ――。
軽快な音が店内に響く。
レナはその姿を見つめていた。
慣れた手つき。
真剣な表情。
大学では見たことのない直人だった。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
結衣も目を輝かせる。
「先輩、かっこいいです!」
栞も小さく微笑む。
「素敵です」
やがて。
色とりどりの五つのグラスが並んだ。
「どうぞ」
直人が一人一人へ差し出す。
「いただきます!」
結衣が最初に一口飲む。
「おいしい!」
目を輝かせた。
「本当だ」
葵も驚く。
「すごく飲みやすい」
栞も頷く。
「おいしいです」
レナもゆっくりと口に運ぶ。
爽やかな甘さが口いっぱいに広がる。
もう一口。
「……」
そして。
「おいしい」
短い一言。
その笑顔だけで。
直人は安心したように笑った。
「よかった」
店長も満足そうに頷く。
「もう十分だな」
「ありがとうございます」
美月もグラスを揺らしながら笑う。
「直人くん」
「腕上げたわね」
「ありがとうございます」
直人は照れくさそうに笑った。
「さて!」
結衣が勢いよく立ち上がる。
「カクテルも飲んだことですし!」
「次は歌いますよー!」
五人は笑いながら個室へ向かった。
レナはもう一度だけ。
カウンターを振り返る。
大学では見られない。
直人の新しい一面が。
少しだけ。
眩しく見えた。




