第58話 偶然
日曜日。
昼過ぎ。
大型ショッピングモール。
直人は一人で歩いていた。
「そろそろ服でも買うか」
季節も変わる。
新しい服が欲しかった。
その時だった。
「あ……」
聞き覚えのある声。
振り向く。
「レナ?」
「なおくん」
二人とも少し驚いていた。
「買い物?」
「ああ」
「私も」
レナは小さく笑う。
「一人?」
「うん」
「なおくんも?」
「ああ」
少しだけ沈黙。
「服?」
レナが聞く。
「そう」
「私も」
二人とも思わず笑った。
「偶然だな」
「うん」
レナは少し照れくさそうだった。
少しだけ歩く。
直人が口を開く。
「せっかくだし」
「ん?」
「お互い見てもらうか?」
レナは少し目を丸くした。
「私でいいの?」
「別に困る理由もないし」
レナは嬉しそうに笑った。
「うん」
「じゃあ」
「なおくんから」
二人はメンズショップへ入る。
店内を歩く。
直人はシャツを一枚手に取った。
「これどう?」
レナは真剣に見る。
「似合う」
「本当か?」
「うん」
少し考える。
そして。
「でも」
隣のラックから別のシャツを取る。
「こっち」
「そんなに違うか?」
「着てみて」
「分かった」
試着室。
数分後。
カーテンが開く。
「どう?」
レナは少し驚いた。
「……」
「おかしいか?」
「違う」
首を振る。
「こっちの方が好き」
素直な感想だった。
「じゃあこれにする」
「うん」
嬉しそうだった。
レジを済ませる。
「次」
レナが微笑む。
「私」
「分かった」
二人はレディースショップへ向かった。
レナはワンピースを一着手に取る。
「これどう?」
淡い水色だった。
直人は少し考える。
「似合うと思う」
「ちゃんと見て」
「ちゃんと見てる」
「本当に?」
「ああ」
レナは少し照れた。
「じゃあ」
「着替えてくる」
試着室へ入る。
数分後。
カーテンが開く。
水色のワンピース姿だった。
「どう?」
直人は少し見惚れた。
「似合ってる」
即答だった。
「本当に?」
「うん」
「じゃあ買う」
嬉しそうだった。
会計を済ませる。
二人とも紙袋を持って歩き始める。
「ありがとう」
レナが言う。
「何が?」
「一人だったら」
紙袋を見る。
「たぶん」
「まだ迷ってた」
「そうか」
「うん」
少しだけ沈黙。
そして。
レナがお腹を押さえた。
「お腹空いた」
直人は思わず笑う。
「俺も」
「じゃあ」
レナが少し照れながら言う。
「ご飯」
「食べる?」
「ああ」
二人はフードコートへ向かった。
休日で賑わっている。
席を探す。
ちょうど二人席が空いていた。
「ここでいいか」
「うん」
向かい合って座る。
料理を待つ間。
レナは紙袋を見て微笑んだ。
「やっぱり」
「ん?」
「さっきの服」
「似合ってた」
直人は少し笑う。
「お前が選んだんだろ」
「うん」
少しだけ照れ笑いを浮かべる。
「だから」
「似合っててよかった」
直人は小さく笑った。
「ありがとう」
レナは嬉しそうに頷く。
そして。
小さく呟いた。
「今度」
「ん?」
「大学にも」
「着てきてね」
直人は少し笑う。
「ああ」
「分かった」
その返事だけで。
レナは満足そうに微笑んだ。
料理が運ばれてくる。
二人は顔を見合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
休日の偶然は。
少しだけ。
二人の距離を縮めていた。




