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第57話 気になってたもの

 喫茶店。


 静かな時間が流れる。


 レナはカフェオレを一口飲んだ。


 そして。


 ふと思い出したように口を開く。


「そういえば」


「ん?」


「食堂で」


 少しだけ間を置く。


「結衣さん」


「騒いでたよね」


「ああ」


 直人は苦笑する。


「あれか」


「うん」


 レナは頷いた。


「写真」


「見せて」


 直人は少し驚く。


「気になってたのか」


「うん」


「何であんなに騒いでたのかなって」


 それだけだった。


 嫉妬でも。


 詮索でもない。


 ただ。


 気になっていた。


「いいぞ」


 直人はスマホを取り出した。


「これ」


 最初の一枚。


 学祭の打ち上げ。


 結衣が腕に抱きつき。


 二人で笑っている写真。


 レナは静かに見つめる。


「……近いね」


「勝手に抱きつかれたんだ」


「そうなんだ」


 レナはもう一度写真を見る。


 少しだけ笑った。


「結衣さんらしい」


「そうだな」


 直人も苦笑する。


 そして。


 もう一枚。


「これは?」


「動物園」


 栞だった。


 腕をぎゅっと抱いている。


 スタッフが撮ってくれた写真。


 レナは少し目を丸くした。


「栞さん?」


「ああ」


「勇気あるね」


 小さく呟く。


「スタッフにもっと近くって言われて」


「うん」


「そしたら急に」


 直人は苦笑する。


「腕を掴まれた」


 レナは写真を見つめる。


 そして。


 少しだけ笑った。


「二人とも」


「ん?」


「幸せそう」


 直人は写真を見る。


「そうか?」


「うん」


 レナはスマホを返した。


「ありがとう」


「気になってたから」


 直人はスマホをしまう。


 少しだけ沈黙が流れる。


 レナはカフェオレに視線を落とした。


「なおくんって」


「ん?」


「誰とでもデートするよね」


 直人は苦笑する。


「ちゃんとみんなには言ってるぞ」


「何を?」


「他に好きな人がいるって」


 レナは少しだけ目を見開いた。


 ――好きな人。


 一瞬だけ。


 胸が高鳴る。


 もしかして。


 私――。


 その考えが頭をよぎる。


 だが。


 レナは小さく首を振った。


 そんなはずない。


 幼稚園の約束なんて。


 子どもの頃の話だ。


 今でも覚えているのは。


 きっと。


 自分だけ。


「……そうなんだ」


 小さく微笑む。


「じゃあ安心した」


「何が?」


「ちゃんと伝えてるなら」


 それ以上は言わなかった。


 直人も聞かなかった。


 それで十分だった。


 窓の外では。


 夕日が街をオレンジ色に染め始めていた。


 静かな喫茶店。


 二人だけの時間は。


 まだゆっくりと流れていた。

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