第56話 帰り道
月曜日。
午後の講義が終わる。
学生たちが一斉に教室を出ていく。
直人も荷物をまとめた。
「帰るか」
今日はバーのバイトもない。
珍しく真っ直ぐ帰れる日だった。
校門を出る。
「あ……」
聞き覚えのある声。
振り向く。
レナだった。
一人だった。
「お疲れ」
「……お疲れ」
二人とも少し立ち止まる。
「帰り?」
「うん」
「そうか」
また沈黙。
数秒。
「駅まで?」
レナが聞く。
「ああ」
「私も」
「じゃあ一緒だな」
二人は並んで歩き始めた。
会話は少ない。
だが。
不思議と気まずくはなかった。
「学祭」
レナが口を開く。
「ん?」
「お疲れ様」
直人は少し驚く。
「見てたのか」
「うん」
「歌、上手だった」
「ありがとう」
少しだけ照れくさい。
しばらく歩く。
「未来の彼氏」
レナが小さく笑う。
「やめてくれ」
直人も苦笑した。
「まだ言われる?」
「ああ」
「結衣さんらしいね」
「否定はできない」
二人とも少し笑う。
駅が近付いてきた。
その時。
レナが立ち止まる。
「ねえ」
「ん?」
「時間ある?」
突然だった。
直人は少し驚く。
「あるけど」
レナは少しだけ安心したように笑った。
「よかった」
そう言うと。
駅前を指差す。
「あそこの喫茶店」
直人も視線を向ける。
昔からある喫茶店だった。
「少しだけ付き合って」
「いいけど」
「ありがとう」
レナは少しだけ嬉しそうだった。
二人は駅とは反対方向へ歩き出す。
喫茶店のドアを開ける。
カラン。
ベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
店員に案内される。
窓際の席。
二人で向かい合って座る。
「何飲む?」
メニューを見ながら直人が聞く。
レナは少し考える。
「カフェオレ」
「じゃあ俺はコーヒーで」
注文を済ませる。
店内は静かだった。
学生の姿も少ない。
落ち着く空間だった。
「こういうところ」
レナが周りを見渡す。
「好き」
「そうなんだ」
「うん」
また少し沈黙。
だが。
その沈黙も嫌ではなかった。
レナはカフェオレを一口飲む。
そして。
直人を見る。
「こうやって」
「ん?」
「二人で話すの」
少し照れたように笑う。
「初めてだね」
直人は少し考える。
「そうかもな」
その一言だけで。
レナは少しだけ嬉しそうに笑った。




