第5話 現実
翌週。
大学へ向かう足取りは少し軽かった。
運動能力E。
ルックスD。
たったそれだけ。
それでも。
何も変わらなかった頃よりずっといい。
「おはよう」
教室へ入る。
「おう、おはよ――って」
友人の佐藤が固まった。
「ん?」
「東條、お前どうした?」
「何が?」
「いや、何か変わったな」
その言葉に少しだけ嬉しくなる。
「髪切っただけだぞ」
「マジか」
佐藤はまじまじと俺を見た。
「前より全然いいじゃん」
「そうか?」
「ああ」
言われると少し照れる。
そんな会話をしていると。
「あれ、東條くん?」
女子の声が聞こえた。
振り返る。
同じ講義を受けている女子だった。
名前は知らない。
「髪切った?」
「あ、うん」
「似合ってるよ」
そう言って去っていった。
数秒。
固まる。
「……」
「……」
佐藤がニヤニヤしていた。
「お前、今の聞いたか?」
「聞いた」
「褒められたんだが?」
「褒められてたな」
「女子に?」
「女子に」
人生初かもしれない。
少なくとも記憶にない。
少しだけ。
本当に少しだけ。
ラブステータスを信じてもいい気がした。
◇◇◇
帰宅後。
俺は上機嫌でAIコーディネートを開いていた。
『おすすめコーデ』
表示された服はどれも悪くない。
むしろ格好いい。
「へぇ」
思わず感心する。
こういうのは全然分からない。
全部任せた方が早そうだった。
『おすすめセット』
ジャケット。
シャツ。
パンツ。
スニーカー。
合計金額。
五万八千円。
「高っ!?」
思わず声が出た。
大学生だぞ?
社会人じゃないんだぞ?
慌てて口座を確認する。
残高。
一万九千三百円。
「終わった……」
服どころじゃない。
今月の生活費どうするんだ。
冷静に考えれば分かることだった。
俺は金持ちじゃない。
普通の大学生だ。
むしろ普通以下かもしれない。
「はぁ……」
ため息を吐く。
その時だった。
ラブステータスが通知を表示した。
『経済力の向上を推奨します』
「うるさい」
『推奨』
『収入向上』
『資格取得』
「分かってるって」
思わず突っ込む。
だが。
言われてみればその通りだった。
服も欲しい。
将来のためにも金は必要だ。
そして。
ラブステータス的にも経済力はF。
改善の余地しかない。
「バイト増やすか……」
今のバイトだけでは厳しい。
スマホ――いや、ブレスレット端末で求人を検索する。
そして。
一つの求人が目に入った。
『引越しスタッフ』
『時給一七〇〇円』
「高っ!?」
思わず声が出た。
仕事内容を見る。
荷物運搬。
家具搬入。
体力必須。
「……」
運動能力向上。
経済力向上。
一石二鳥じゃないか。
少し嫌な予感はした。
だが。
その時の俺はまだ知らない。
引越し業界に化け物みたいな先輩達がいることを。




