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第48話 学祭ライブ

 学祭当日。


 大学は朝から賑わっていた。


 模擬店。


 展示。


 ステージ。


 どこを見ても人がいる。


「先輩!」


 そして。


 一番元気なのもいた。


 音羽結衣だった。


「うるさい」


「ひどい!」


 結衣は笑う。


 全然気にしていない。


「緊張してます?」


「別に」


「嘘です」


「何でだ」


「分かります」


 全然分からなかった。


 舞台袖。


 吹奏楽部が準備をしている。


 結衣はマイクを握りながら落ち着かない。


 さっきからずっと動いていた。


「お前の方が緊張してるだろ」


「してません!」


 即答だった。


 だが。


 手は少し震えていた。


「してるじゃないか」


「これは武者震いです!」


「そうか」


 たぶん違う。


 その時。


「そろそろです」


 スタッフが声を掛けた。


 結衣が大きく深呼吸する。


 そして。


 笑った。


「行きましょう!」


 返事をする前に。


 引っ張られた。


 客席。


 前列。


 葵と陽菜が並んでいた。


「始まるね」


「始まるね」


 二人とも楽しそうだった。


 その少し後ろ。


 栞が静かに座っている。


 さらに。


 レナもいた。


 隣には友人。


「来たんだ」


「学祭だから」


 即答だった。


「ふーん」


 友人は笑った。


 信じていない。


 その時。


 照明が落ちた。


 歓声。


 ステージへ視線が集まる。


 そして。


 結衣が飛び出した。


「みんなー!」


 歓声が上がる。


「盛り上がってますかー!」


 さらに歓声。


「今日は特別ゲストがいます!」


 結衣が笑う。


「東條直人ー!」


 会場が沸いた。


 直人がステージへ出る。


「ほんとに出た」


 陽菜が笑う。


「出たね」


 葵も笑う。


 栞は黙って見ていた。


 レナも。


 何も言わない。


 そして。


 イントロが流れる。


 静かになる会場。


 マイクを握る直人。


 そして。


 歌い始めた。


 栞が固まる。


 レナも固まる。


 友人まで固まる。


「えっ」


 小さな声だった。


「上手くない?」


 レナは答えない。


 答えられなかった。


 思った以上だった。


 本当に。


 思った以上だった。


 栞も目を見開いている。


 歌声だけが会場に響く。


 一曲。


 そして二曲。


 気付けば。


 会場全体が引き込まれていた。


 曲が終わる。


 大きな拍手。


 歓声。


 結衣が笑う。


「どうでしたかー!」


 歓声が返ってくる。


 そして。


 直人はマイクを置いた。


「じゃあ帰る」


 結衣が固まる。


 会場も少し静かになる。


「帰りません!」


「帰る」


「帰りません!」


「帰る」


 漫才みたいだった。


 会場から笑いが起きる。


 そして。


 結衣が客席へ向かって叫んだ。


「みなさん!」


 嫌な予感がした。


「もっと聞きたいですよねー!」


 歓声。


 拍手。


 大歓声。


 直人は天井を見た。


 味方がいなかった。


 客席。


 葵が笑っている。


 陽菜も笑っている。


 栞まで拍手している。


 レナも。


 小さく拍手していた。


「先輩?」


 結衣が笑う。


「帰ります?」


 会場。


 大歓声。


 直人は諦めた。


「……今日だけだぞ」


 結衣が飛び跳ねた。


「やったー!」


 歓声。


 拍手。


 そして。


 ライブは続いた。


 たぶん。


 最初から。


 結衣は帰す気など。


 一度もなかった。

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