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第47話 練習

「先輩!」


 放課後。


 講義が終わった直後だった。


 結衣が現れる。


 嫌な予感しかしない。


「何だ」


「練習です!」


「一回でいいだろ」


「ダメです!」


 即答だった。


「本番まで二週間ですよ!?」


「十分だろ」


「十分じゃありません!」


 うるさかった。


 本当にうるさかった。


 結局。


 直人は連行された。


 向かった先はカラオケだった。


「よし!」


 結衣が気合を入れる。


「始めます!」


「何を」


「特訓です!」


「嫌な予感しかしない」


 その予感は正しかった。


 一時間後。


「もう一回!」


「まだやるのか」


「やります!」


 二時間後。


「そこです!」


「どこだ」


「そこです!」


 三時間後。


「完璧です!」


「疲れた」


「お疲れ様でした!」


 ようやく終わった。


 直人はソファへ沈み込む。


「普通逆じゃないか?」


「何がです?」


「俺が教える側だろ」


「私は監督です!」


 意味が分からなかった。


 だが。


 結衣は満足そうだった。


「学祭楽しみです」


「そうか」


「先輩は?」


「別に」


「嘘です」


 即答だった。


「何でだ」


「分かります」


 全然分からなかった。


 そして。


 店を出る。


 外はすっかり暗くなっていた。


「お腹空きました」


 結衣が言った。


「そうか」


「そうです」


 沈黙。


 結衣が見上げる。


 直人を見る。


 待っている。


 明らかに待っている。


「……飯行くか」


「行きます!」


 即答だった。


 予想通りだった。


 近くのファミレス。


 向かい合って座る。


 結衣は楽しそうだった。


 本当に楽しそうだった。


「先輩」


「何だ」


「学祭終わったら打ち上げです」


「そうだろうな」


「来ますよね?」


「行かない」


「来ますよね?」


「行かない」


「来ますよね?」


「聞いてないだろ」


 結衣は笑う。


 たぶん。


 聞いていない。


 料理が運ばれてくる。


 食事をしながら。


 他愛もない話をする。


 学祭。


 軽音部。


 授業。


 バイト。


 気付けば。


 二時間近く経っていた。


「そろそろ帰るか」


「はい!」


 会計を済ませる。


 店を出る。


 駅まで歩く。


 そして。


「先輩」


「何だ」


「送ってください」


「駅前だぞ」


「女の子ですよ?」


「大丈夫だろ」


 結衣が頬を膨らませる。


「もし襲われたらどうするんですか」


「お前を襲う奴の方が心配だ」


「ひどい!」


 本当にひどい。


 結衣は大げさに肩を落とす。


 そして。


 数歩歩いてから。


 また振り返った。


「じゃあ」


「ん?」


「私が襲われてもいいんですか?」


「良くない」


 即答だった。


 結衣が笑う。


 満面の笑みだった。


「ですよね!」


「何がだ」


「じゃあ送ってください!」


「そこに繋がるのか」


 繋がるらしい。


 結局。


 直人は結衣の最寄り駅まで送ることになった。


 改札前。


「今日は楽しかったです」


 結衣が笑う。


「ああ」


「デートみたいでしたね」


「違う」


 予想通りだった。


 結衣が吹き出す。


「言うと思いました」


「だろうな」


「でも」


 結衣が少しだけ真面目な顔になる。


「本当に楽しかったです」


 直人は少しだけ困った顔をした。


「そうか」


「はい」


 結衣は笑う。


 いつもの笑顔だった。


「学祭頑張りましょう!」


「ああ」


 そう答える。


 そして。


 改札を抜けていく結衣を見送りながら。


 直人は思う。


 たぶん。


 学祭より大変なのは。


 こいつの相手かもしれない、と。

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