第46話 勧誘
学祭まで一ヶ月。
昼休み。
学食。
「先輩!」
嫌な予感がした。
振り返らなくても分かる。
音羽結衣だった。
「何だ」
「お願いがあります!」
「断る」
「まだ何も言ってません!」
いつものだった。
直人はため息を吐く。
「で?」
結衣が満面の笑みを浮かべる。
「学祭ライブ!」
「うん」
「一緒に出ましょう!」
「嫌だ」
即答だった。
結衣が固まる。
「早くないですか!?」
「普通だ」
普通だった。
大学の学祭だ。
一般人がステージへ出る理由はない。
「でも先輩歌上手いじゃないですか!」
「普通だ」
「普通じゃないです!」
結衣が机を叩く。
学食が少し静かになった。
「落ち着け」
「無理です!」
その時。
陽菜が口を開く。
「何で急に?」
「実はですね」
結衣が得意げに胸を張る。
「バンドメンバーが来れません!」
「え?」
葵が首を傾げる。
「他大学なんです」
「あー」
それなら仕方ない。
「軽音部は?」
直人が聞く。
「自分達のバンドがあります!」
なるほど。
「だから!」
結衣が立ち上がる。
「吹奏楽部に協力してもらいます!」
「へぇ」
「そして!」
嫌な予感。
とても嫌な予感。
「ツインボーカルです!」
嫌な予感しかしなかった。
「嫌だ」
「お願いします!」
「嫌だ」
「お願いします!」
同じ会話だった。
「私は賛成かな」
陽菜だった。
直人が振り向く。
「何でだ」
「また聞きたいし」
「私も」
葵が頷く。
「上手かったし」
「余計なこと言うな」
「事実だし」
二人とも悪びれない。
「ほら!」
結衣が勢いづく。
「聞いた人がみんな言ってるじゃないですか!」
「お前もいただろ」
「いました!」
胸を張る。
「だから分かるんです!」
うるさかった。
本当にうるさかった。
その時。
栞がスマホを操作した。
数秒後。
直人のスマホが震える。
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聞いてみたいです
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「お前そこにいるだろ」
栞が視線を逸らした。
学食にいる。
同じテーブルにいる。
なのにメッセージだった。
「雨宮さんは聞いたことないもんね」
陽菜が笑う。
栞は小さく頷いた。
「ほら!」
結衣がまた机を叩く。
「栞さんも聞きたいって言ってます!」
「だから机を叩くな」
「細かいです!」
全然細かくなかった。
だが。
逃げ道は狭くなっていた。
結衣。
陽菜。
葵。
栞。
全員がこちらを見ている。
「……一曲だけだぞ」
結衣が固まる。
数秒。
沈黙。
そして。
「やったーーーー!!」
学食中に響く声だった。
少し離れた席。
レナは友人と昼食を食べていた。
「何騒いでるんだろ」
友人が向こうを見る。
「学祭の話じゃない?」
レナも何となく視線を向ける。
「先輩歌ってください!」
結衣の声が聞こえた。
「へぇ」
友人が少し驚く。
「東條くん歌うの?」
「知らない」
レナは答える。
だが。
何となく気になった。
「聞いてみたい?」
友人が聞く。
「まあ」
レナは何気なく答えた。
そして。
数秒後。
固まる。
「ん?」
友人が笑う。
「東條くんの歌?」
「えっ?」
レナが顔を上げる。
「違う違う」
「違うの?」
「学祭のライブ」
「東條くんが出るライブ?」
レナが言葉に詰まる。
「そうだけど」
「同じじゃん」
反論できなかった。
友人はニヤニヤしている。
「楽しみなんだ」
「違う」
「楽しみなんだ」
「違う」
全然信じてもらえなかった。




