第45話 見てない
昼休み。
学食。
レナは友人と向かい合って座っていた。
適当に昼食を食べながら。
何となく視線を上げる。
そして。
見つけてしまう。
東條直人。
いつもの席。
朝比奈葵。
藤宮陽菜。
音羽結衣。
そして。
雨宮栞。
今日も全員揃っていた。
「どんどん進んでませんかーーー!」
結衣の声が学食に響く。
レナは思わず箸を止めた。
また始まったらしい。
「レナ」
「ん?」
友人がニヤニヤしていた。
「何見てるの?」
「別に」
「別にじゃないでしょ」
友人が視線を追う。
そして。
「あー」
納得したように頷いた。
「東條くんか」
レナは固まる。
「違う」
「いや見てたじゃん」
「見てない」
「見てた」
即答だった。
面倒だった。
本当に。
面倒だった。
友人は楽しそうだった。
「最近かっこよくなったよね」
レナは何も言わない。
「前はもっと地味だったのに」
「そう?」
「そうだよ」
友人は頷く。
「何か雰囲気変わった」
レナは少しだけ視線を向ける。
確かに。
変わった。
前より笑うようになった。
前より表情が柔らかい。
それは認める。
だが。
口には出さない。
「そうかな」
「そう」
友人は断言した。
「結構モテそう」
レナが飲み物を口に運ぶ。
その瞬間。
「先輩!」
結衣の声。
「私ともデートしてください!」
危うく吹きそうになった。
「ほら」
友人が笑う。
「モテてる」
「……」
否定できなかった。
そして。
友人はさらに向こうを見る。
「あの子は?」
「ん?」
「本持ってる子」
栞だった。
今日も静かだった。
会話に参加しているのか。
していないのか。
よく分からない。
「雨宮さん」
「友達?」
「たぶん」
友人が首を傾げる。
「喋ってるの見たことない」
確かに。
あまり喋らない。
でも。
「人見知りなだけ」
レナは答える。
「そうなの?」
「たぶん」
友人が少し驚く。
「レナ詳しいね」
「別に」
本当に別にだった。
ただ。
何となく分かるだけだ。
向こうを見る。
結衣が騒いでいる。
葵が苦笑している。
陽菜が笑っている。
栞は静かにお茶を飲んでいた。
いつも通りだった。
「レナ」
「何?」
「気になる?」
即答だった。
「ならない」
「ふーん」
友人は全然信じていない。
「じゃあ取られる前に行けば?」
レナが固まる。
「何を」
「東條くん」
「違う」
即答だった。
本当に。
即答だった。
だが。
友人はニヤニヤしている。
「怪しいなー」
「怪しくない」
「怪しい」
「怪しくない」
同じやり取りだった。
その時。
向こうの席で。
直人が立ち上がる。
次の授業だろう。
葵も。
陽菜も。
結衣も。
栞も。
立ち上がる。
みんな笑っていた。
栞も。
少しだけ笑っていた気がする。
そして。
直人達の姿が見えなくなる。
レナは視線を戻した。
昼食はまだ残っている。
なのに。
少しだけ静かになった気がした。
「レナ」
「何?」
「好きなんじゃない?」
友人が笑う。
レナはため息を吐いた。
「違う」
「ほんとに?」
「ほんと」
友人は全然信じていなかった。
レナも。
それ以上は何も言わない。
ただ。
少しだけ思う。
もし。
今。
あの輪の中にいるのが自分だったら。
少しは楽しいのだろうか。
「……」
「レナ?」
「何でもない」
そう。
何でもない。
たぶん。
まだ。
何でもない。




