第43話 応援
日曜日。
朝。
直人は少し早く家を出た。
県大会。
朝比奈葵の大会だった。
「本当に来るとは思わなかった」
自分でもそう思う。
だが。
約束したのだから仕方ない。
会場へ到着する。
競技場は思ったより広かった。
選手達がアップしている。
観客席へ向かう。
その時だった。
「あっ!」
聞き慣れた声。
葵だった。
アップ中だったらしい。
「東條くん!」
笑顔で手を振る。
周囲の視線が集まった。
少し恥ずかしい。
「来てくれたんだ」
「まあな」
「嬉しい」
葵が笑う。
それだけだった。
だが。
近くにいた女子選手達は。
全員こちらを見ていた。
「朝比奈」
「ん?」
「彼氏?」
葵が固まる。
「違うよ!」
即答だった。
「友達」
女子選手達。
全員。
微妙な顔。
「ふーん」
全然信じていなかった。
「本当に友達だから!」
「はいはい」
完全に流された。
葵が困っている。
直人は少し面白かった。
「笑ってる」
「いや」
「笑ってる」
バレていた。
その後。
競技開始。
スタートラインへ立つ葵。
さっきまでと雰囲気が違った。
真剣だった。
集中している。
そして。
スタート。
直人は思わず立ち上がった。
「速いな」
本当に速かった。
普段一緒に走っている。
だが。
競技場で見ると全然違う。
結果。
二位。
十分すごかった。
レース終了後。
汗を拭きながら。
葵が観客席へ走ってくる。
「どうだった?」
少し不安そうだった。
「格好良かった」
思ったことをそのまま言う。
葵が固まる。
「え?」
「速かったし」
「うん」
「格好良かった」
数秒。
沈黙。
そして。
葵の顔が少し赤くなった。
「ありがとう」
小さな声だった。
その時。
「葵ー!」
女性の声。
振り向く。
夫婦だった。
「あ」
葵が手を振る。
「お父さん、お母さん」
嫌な予感。
とても嫌な予感。
「こちら」
葵が笑う。
「友達の東條くん」
紹介された。
逃げられなかった。
「初めまして」
直人は頭を下げる。
母親が笑った。
「初めまして」
優しそうな人だった。
「いつも葵がお世話になってます」
「いえ」
何もしていない。
父親も頭を下げる。
「初めまして」
「初めまして」
数秒。
沈黙。
父親。
直人を見る。
葵を見る。
また直人を見る。
「なるほど」
何がだ。
何もなるほどじゃない。
「お父さん」
葵が呆れた声を出す。
慣れているらしい。
母親が笑う。
「東條くん」
「はい」
「お昼まだ?」
「え?」
「これからよね?」
嫌な予感。
「せっかくだし」
母親は笑顔だった。
「一緒にどう?」
直人は固まる。
葵も固まる。
父親だけが頷いていた。
「そうだな」
何でだ。
「いや」
葵が慌てる。
「東條くんも予定あるかも」
「ない」
思わず答えてしまった。
葵がこちらを見る。
「あることにしてよ」
「無茶言うな」
母親が吹き出した。
「仲良いわね」
「違う」
「違います」
二人同時だった。
だが。
誰も信じていなかった。
たぶん。
父親も。
母親も。
さっきの女子選手達も。
誰一人。




