第39話 水族館
月曜日。
昼休み。
学食は混んでいた。
直人はいつもの席へ座る。
すると。
「東條くん」
聞き慣れた声。
藤宮陽菜だった。
「どうした?」
「今度の日曜空いてる?」
直人は少し考える。
「たぶん」
「じゃあ水族館行こう」
「……は?」
陽菜は首を傾げた。
「水族館」
「それは聞こえた」
「じゃあ問題ないね」
「問題しかないだろ」
陽菜は不思議そうな顔をした。
「何が?」
「何がって」
二人で。
水族館。
どう考えても。
「いや」
「うん」
「何で?」
「行きたいから」
即答だった。
全く迷いがない。
「友達誘えばいいだろ」
「東條くんがいい」
「何で」
「楽しいから」
直人は言葉に詰まった。
陽菜は本気だった。
変な意味もない。
本当に。
純粋に。
一緒に行きたいだけらしい。
「ダメ?」
少しだけ首を傾げる。
卑怯だった。
「……別にダメじゃない」
「やった」
陽菜が笑う。
本当に嬉しそうだった。
「じゃあ決まりね」
「決まりなのか」
「決まり」
陽菜は頷く。
そして。
立ち上がった。
「じゃあまたね」
「お、おう」
それだけだった。
本当に。
それだけだった。
陽菜はそのまま去っていく。
直人はしばらく呆然としていた。
「水族館か……」
何となく。
スマホを取り出す。
検索する。
営業時間。
料金。
アクセス。
我ながら律儀だった。
その時。
━━━━━━━━━━━━
ラブステータス
━━━━━━━━━━━━
「うわっ」
突然表示された。
━━━━━━━━━━━━
予定登録
━━━━━━━━━━━━
藤宮陽菜
水族館
━━━━━━━━━━━━
「勝手に登録するな」
━━━━━━━━━━━━
適正評価です
━━━━━━━━━━━━
「最近そればっかりだな」
もう慣れてきた。
慣れたくなかった。
その日の夜。
バー。
「東條」
店長が声をかける。
「はい」
「グラス補充しとけ」
「分かりました」
棚へ向かう。
仕事は嫌いじゃなかった。
少しずつ覚えることも増えている。
「こんばんは」
聞き慣れた声。
牧村美月だった。
「こんばんは」
「今日も頑張ってるわね」
「どうも」
美月はいつもの席へ座る。
だが。
今日はなぜか機嫌が良さそうだった。
「あら」
「何ですか」
「最近楽しそうね」
直人は首を傾げる。
「そうですか?」
「そうよ」
美月は笑う。
「前より表情柔らかいもの」
「気のせいです」
「あらあら」
美月は笑う。
それから。
少しだけ真面目な顔になった。
「友達増えた?」
直人は少し驚く。
「何で分かったんですか」
「分かるわよ」
美月は笑った。
「若いんだから」
意味が分からなかった。
だが。
少しだけ。
嬉しい気もした。
帰宅後。
スマホが鳴る。
栞だった。
━━━━━━━━━━━━
今日買った本です
━━━━━━━━━━━━
本の写真。
そして。
━━━━━━━━━━━━
面白そうです
━━━━━━━━━━━━
いつも通りだった。
数秒後。
さらにメッセージ。
━━━━━━━━━━━━
東條さんは
水族館好きですか?
━━━━━━━━━━━━
直人は固まった。
「何で知ってるんだ?」
怖かった。
本当に怖かった。
だが。
その問いに対する返信は。
━━━━━━━━━━━━
ペンギンの本を見つけました
━━━━━━━━━━━━
だった。
偶然らしい。
たぶん。
きっと。
おそらく。
「……偶然だよな」
少しだけ。
自信はなかった。




