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第37話 友達が増えました

 気付けば。


 二時間近く経っていた。


「楽しかったー!」


 結衣が伸びをする。


 最後まで元気だった。


 本当に元気だった。


「結衣ちゃん体力すごいね」


 葵が苦笑する。


「よく言われます!」


 自慢になっていない。


 だが。


 本人は満足そうだった。


「そろそろ帰ろうか」


 陽菜が時計を見る。


 時間も遅い。


 みんな頷いた。


 そして。


 店を出る準備を始める。


━━━━━━━━━━━━


『ありがとうございました』


━━━━━━━━━━━━


 スマホが鳴る。


 栞だった。


 本人はすぐ横にいる。


「直接言えばいいだろ」


━━━━━━━━━━━━


『難しいです』


━━━━━━━━━━━━


 いつものだった。


 思わず笑う。


 すると。


 栞が少しだけ安心したような顔をする。


「雨宮さん」


 陽菜が声をかけた。


 栞が固まる。


「また来ようね」


━━━━━━━━━━━━


『はい』


━━━━━━━━━━━━


「返事してくれた」


 陽菜が笑う。


 栞は少しだけ恥ずかしそうだった。


「今度は歌いましょう!」


 結衣だった。


━━━━━━━━━━━━


『無理です』


━━━━━━━━━━━━


「歌いましょう!」


━━━━━━━━━━━━


『無理です』


━━━━━━━━━━━━


「歌いましょう!」


━━━━━━━━━━━━


『無理です』


━━━━━━━━━━━━


 本気で嫌そうだった。


 だが。


 結衣は諦めない。


「一曲だけ!」


━━━━━━━━━━━━


『無理です』


━━━━━━━━━━━━


「一曲だけ!」


━━━━━━━━━━━━


『無理です』


━━━━━━━━━━━━


 終わらない。


 本当に終わらない。


 陽菜が吹き出した。


 葵も笑っている。


 そして。


 俺も笑ってしまった。


 栞は少し驚いた顔をした。


 俺を見る。


 それから。


 みんなを見る。


 そして。


 本当に少しだけ。


 口元が緩んだ。


 その時だった。


 入り口のベルが鳴る。


 カラン。


「こんばんは」


 女性の声。


 全員が振り返る。


 そこには。


 一人の女性が立っていた。


 二十代半ばくらい。


 落ち着いた雰囲気。


 綺麗な人だった。


「あ」


 店長が笑う。


「いらっしゃい」


「こんばんは」


 女性は笑顔で頭を下げる。


 そして。


 こちらを見る。


 数秒。


 見つめる。


 それから。


 俺を見る。


「あらー」


 嫌な予感。


「東條くん」


「はい」


「賑やかねぇ」


 女性は笑った。


 そして。


 葵。


 陽菜。


 結衣。


 栞。


 順番に見る。


「あらあら」


 さらに笑う。


「東條くんのお友達?」


「そうです!」


 結衣が即答した。


「先輩です!」


「友達です」


 葵が笑う。


「ご飯仲間かな」


 陽菜も続く。


 そして。


 栞。


 少しだけ迷う。


 スマホを取り出す。


━━━━━━━━━━━━


『友達です』


━━━━━━━━━━━━


 一瞬。


 空気が止まった。


 そして。


 葵が笑う。


 陽菜も笑う。


 結衣も笑う。


 栞だけ顔が赤かった。


「あらー」


 女性が優しく微笑む。


「可愛い子ね」


━━━━━━━━━━━━


『ありがとうございます』


━━━━━━━━━━━━


「あはは」


 女性が吹き出した。


「面白いわね」


 そして。


 俺を見る。


「あらー」


 嫌な予感しかしなかった。


「東條くん」


「何ですか」


「モテるのねぇ」


「違います」


 即答だった。


「みんなそう言うのよ」


 全然信じていない。


 女性は笑った。


「私、牧村美月」


 軽く頭を下げる。


「このお店の常連なの」


「音羽結衣です!」


「朝比奈葵です」


「藤宮陽菜です」


 そして。


 栞。


━━━━━━━━━━━━


『雨宮栞です』


━━━━━━━━━━━━


「よろしくね」


 美月が微笑む。


 栞は小さく頷いた。


 その様子を見て。


 美月は少しだけ優しい顔になる。


「青春ねぇ」


 誰に言ったのかは分からない。


 だが。


 なぜか全員少しだけ照れ臭かった。


 帰宅後。


 スマホが鳴る。


 栞からだった。


━━━━━━━━━━━━


『今日は楽しかったです』


━━━━━━━━━━━━


 少し間が空く。


 そして。


━━━━━━━━━━━━


『友達が増えました』


━━━━━━━━━━━━


 その一文を見て。


 少しだけ驚いた。


 そして。


 少しだけ嬉しかった。


 たぶん。


 今日一番変わったのは。


 俺じゃなくて。


 雨宮栞だった。

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