第35話 制服見たいです!
土曜日。
BAR Moonlight。
「東條」
店長が笑う。
「はい」
「来たぞ」
嫌な予感しかしなかった。
視線を向ける。
そこには。
朝比奈葵。
音羽結衣。
藤宮陽菜。
三人が並んでいた。
「こんにちは」
葵が手を振る。
「お邪魔します」
陽菜が笑う。
「先輩ー!」
結衣だけ元気だった。
いつも通りだ。
「いらっしゃい」
そう言うと。
結衣の目が輝いた。
「制服!」
やっぱりそこだった。
「制服です!」
なぜそんなに嬉しそうなんだ。
「似合ってるね」
葵が笑う。
「確かに」
陽菜も頷く。
「でしょ!」
なぜか結衣が胸を張った。
意味が分からない。
「お前が自慢するな」
「します!」
即答だった。
数十分後。
三人は個室へ移動していた。
カラオケ付きの個室。
嫌な予感しかしない。
「先輩」
結衣が言う。
「何だ」
「歌いましょう」
「嫌だ」
「歌いましょう」
「嫌だ」
始まった。
「歌いましょう」
「嫌だ」
「歌いましょう」
「嫌だ」
終わらない。
永遠に終わらない。
葵が笑っている。
陽菜も笑っている。
誰も助けてくれない。
「東條くん」
陽菜が言う。
「何だ」
「諦めた方が早いと思う」
「俺もそう思う」
だが。
負けたくなかった。
「先輩」
「何だ」
「歌いましょう」
「嫌だ」
結局同じだった。
その時。
店長がドアを開ける。
「東條」
「はい」
「個室B予約入った」
「あ」
客だった。
「こっち使うぞ」
「分かりました」
つまり。
逃げ場がなくなった。
個室Aしか残らない。
そして。
カラオケも残った。
「先輩」
結衣が笑う。
「逃げられませんね」
「最悪だ」
本気だった。
結衣は満面の笑みだった。
数分後。
マイクを持たされる。
完全敗北だった。
「一曲だけ」
「やったー!」
結衣が喜ぶ。
曲を入れる。
イントロが流れる。
そして。
歌う。
歌い終わる。
静かだった。
「……」
「……」
「……」
反応がない。
やっぱり下手だったか。
そう思った瞬間だった。
「え?」
葵が固まっていた。
「え?」
もう一度言う。
「うまくない?」
結衣が腕を組む。
「でしょ」
なぜお前が偉そうなんだ。
「いや本当に」
葵は驚いていた。
「東條くん?」
「何だ」
「うまくない?」
「さっきも聞いた」
「想像以上だった」
本気で驚いているらしい。
陽菜も頷く。
「普通に上手いね」
「ボイトレやってるからかな」
「へぇ」
葵が笑う。
「知らなかった」
少しだけ。
その言葉が嬉しかった。
「私」
葵が言う。
「東條くんのこと結構知ってると思ってたんだけど」
「うん」
「全然知らなかった」
笑顔だった。
その時だった。
「次!」
結衣が立ち上がる。
「葵さん!」
「え?」
「歌ってください!」
ターゲット変更。
葵が苦笑する。
「普通だよ?」
「いいから!」
押し切られた。
そして。
葵も歌う。
「おぉ」
普通に上手かった。
声も綺麗だった。
「陸上やってるからかな」
肺活量もある。
聞きやすかった。
「うまいな」
思わず言う。
「ありがとう」
葵が少し照れる。
そして。
最後は結衣だった。
「いきます!」
マイクを握る。
空気が変わった。
数分後。
曲が終わる。
拍手。
葵も拍手していた。
「すごい」
「へへへ」
結衣が笑う。
「プロみたい」
「そんなことないです」
嬉しそうだった。
そして。
俺を見る。
「先輩」
「ん?」
「どうでした?」
期待の目。
少し考える。
そして。
「格好良かった」
一瞬だった。
結衣が固まる。
「またそれですか!」
顔が真っ赤だった。
葵が吹き出した。
「何それ」
「聞かないでください!」
結衣は両手で顔を隠した。
だが。
どう見ても嬉しそうだった。
その様子を見ながら。
陽菜はジュースを飲む。
そして。
小さく呟いた。
「なるほどね」
「何が?」
「別に?」
笑顔だった。
なぜだろう。
少しだけ怖かった。




