第34話 カラオケより気になる場所
昼休み。
学食。
俺は少し後悔していた。
「先輩」
「何だ」
「カラオケ」
「行かない」
まだ続いていた。
「カラオケ」
「行かない」
「カラオケ」
「行かない」
会話にならない。
音羽結衣は諦めなかった。
本当に諦めなかった。
「何でですか!」
「この前行っただろ」
「また行きましょう!」
「行かない」
「行きましょう!」
しつこい。
本当にしつこい。
向かいでは藤宮陽菜が笑っている。
隣では朝比奈葵も笑っていた。
誰も助けてくれない。
「先輩」
「何だ」
「カラオケ」
「行かない」
「カラオケ」
「行かない」
無限ループだった。
その時。
「そういえば」
葵が口を開く。
「東條くんのバイト先面白かったよ」
結衣が止まった。
本当に止まった。
「え?」
数秒。
沈黙。
「バイト?」
「うん」
葵が頷く。
「バー」
結衣が固まる。
「バー?」
もう一度聞く。
「バー」
葵がもう一度答える。
結衣が立ち上がった。
「先輩バーでバイトしてるんですか!?」
声が大きい。
周囲が見ている。
「座れ」
「バー!?」
「座れ」
「かっこいい!」
全然座らなかった。
むしろ興奮していた。
「別に普通だ」
「普通じゃないです!」
結衣は本気だった。
そして。
葵が追い打ちをかける。
「制服も似合ってたよ」
結衣が固まる。
数秒。
完全に固まる。
「制服?」
嫌な予感しかしなかった。
「制服」
葵が笑う。
「結構似合ってた」
終わった。
「制服!?」
結衣の目が輝く。
やめてほしい。
本当に。
「見たいです!」
「見せない」
「見たいです!」
「見せない」
「見たいです!」
しつこい。
本当にしつこい。
そして。
結衣は両手を机についた。
「行きます」
「何が」
「バー」
即答だった。
「行かないでくれ」
「行きます」
即答だった。
「今度また行こうかなと思ってた」
葵が言う。
「一緒に行く?」
結衣は一秒も悩まなかった。
「行きます!」
即答だった。
それはもう見事なくらい。
「やった」
葵も笑う。
なぜだろう。
嫌な予感しかしない。
「先輩」
結衣が言う。
「何だ」
「シェイカー振るんですか?」
「まだ振れない」
「練習してください!」
「嫌だ」
「振ってください!」
無茶を言う。
「見たいです!」
「知らない」
「見たいです!」
周囲の視線が痛かった。
陽菜がジュースを飲みながら言う。
「東條くん」
「何だ」
「人気者だね」
「違う」
即答だった。
だが。
誰も信じていなかった。
特に。
目を輝かせながらバーの話を聞いている結衣は。
完全に次の予定を決めている顔だった。




