第33話 誰でもいいわけじゃない
昼休み。
学食。
俺は一人で昼食を食べていた。
「東條くん」
聞き慣れた声。
顔を上げる。
藤宮陽菜だった。
「どうも」
「隣いい?」
「どうぞ」
陽菜は自然に向かいへ座った。
そして。
数秒。
俺の顔を見る。
嫌な予感がした。
「何?」
「別に?」
笑顔だった。
だが。
嫌な予感は消えない。
「東條くん」
「ん?」
「私さ」
「うん」
「すぐ決めなくていいよって言ったよね?」
言った。
確かに言った。
「言ったな」
「人生長いんだから」
「うん」
「ゆっくり決めていいよって」
「うん」
そこまでは覚えている。
問題はその先だった。
「でもさ」
陽菜は笑顔のまま言った。
「誰でも彼でも手を出していいとは言ってないんだけど?」
危うく味噌汁を吹きそうになった。
「待て」
「待たない」
「誤解だ」
「誤解かなー?」
全然信じていない。
「朝比奈さん」
陽菜が指を一本立てる。
「友達」
即答した。
「音羽さん」
「後輩」
「雨宮さん」
「本友達」
陽菜は数秒黙る。
そして。
「増えたね」
「増えたな」
否定できなかった。
「しかも」
陽菜が続ける。
「今朝」
嫌な予感しかしない。
「朝比奈さんと登校してたよね?」
「してた」
「その途中で」
「うん」
「音羽さんが腕組んでたよね?」
「事故だ」
「事故かなー?」
絶対信じていない。
「モテ期?」
「違う」
即答だった。
絶対違う。
俺にそんなものは来ない。
陽菜はストローでジュースを飲む。
そして。
少しだけ優しく笑った。
「頑張ったんだね」
その言葉に。
少しだけ言葉が詰まる。
筋トレ。
ランニング。
勉強。
ボイトレ。
バイト。
全部。
レナのために始めたことだった。
「まぁ」
「うん」
「少しは」
そう答える。
陽菜は満足そうに頷いた。
「でも」
そして。
少しだけ意地悪そうに笑う。
「レナさんも大変だね」
「何で?」
「何でも」
絶対何かある。
だが。
教えてはくれなかった。
その時だった。
「先輩ー!」
遠くから声が聞こえる。
嫌な予感。
本日三回目だった。
振り返る。
音羽結衣だった。
全力で走ってくる。
「先輩ー!」
「来るな!」
「ひどい!」
そのまま俺の隣へ座る。
「先輩」
「何だ」
「今日カラオケ行きません?」
「行かない」
「行きましょう」
「行かない」
「行きましょう」
会話にならない。
陽菜が吹き出した。
「元気だね」
「でしょ!」
なぜ結衣が誇らしそうなんだ。
さらに。
「東條くん」
今度は葵だった。
トレーを持ってこちらへ来る。
「席空いてる?」
「空いてる」
「じゃあ失礼します」
普通に座った。
そして。
結衣を見る。
「こんにちは」
「こんにちは!」
すぐに打ち解ける。
コミュ力が高い。
俺とは違う。
少し離れた席。
そこには雨宮栞がいた。
本を読んでいる。
ように見える。
だが。
ページが全然進んでいない。
たぶん。
こっちを見ている。
目が合った。
栞は慌てて本を開いた。
遅い。
もう見えている。
陽菜はその光景を見て。
数秒黙った。
そして。
笑顔で言った。
「東條くん」
「何だ」
「やっぱりモテ期じゃない?」
「違う」
即答だった。
だが。
陽菜は全く信じていなかった。




