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第31話 ステージの上の君

『今週土曜日ライブです!』


 音羽結衣からメッセージが届いた。


 相変わらず音符マークが多い。


『暇なら来てください!』


 暇なら。


 そう書いてある。


 だが。


 その三行後。


『絶対来てください!』


 矛盾していた。


 土曜日。


 ライブハウス。


 人生初だった。


 地下へ続く階段を降りる。


 思ったより人が多い。


 若い人が多い。


 そして。


 熱気が凄い。


「場違いかもな」


 小さく呟く。


 だが。


 もう来てしまった。


 諦める。


 数組の演奏が終わる。


 そして。


 照明が落ちた。


 歓声が上がる。


「次は!」


 司会が叫ぶ。


「Blue Sky!」


 拍手。


 歓声。


 そして。


 ステージへ人が現れる。


 ギター。


 ベース。


 ドラム。


 そして。


 ボーカル。


「え?」


 思わず声が出た。


 音羽結衣だった。


 だが。


 いつもの結衣じゃない。


 髪をまとめている。


 表情も違う。


 立ち方も違う。


 別人だった。


 そして。


 マイクを握る。


「こんばんはぁぁぁぁ!」


 会場が揺れた。


 歓声。


 拍手。


 そして。


 演奏が始まる。


 数秒後。


 俺は言葉を失った。


 上手い。


 本当に上手い。


 技術だけじゃない。


 声が届く。


 感情が届く。


 目が離せない。


 スポットライトの中心。


 そこにいる結衣は。


 普段の後輩じゃなかった。


 ボーカリストだった。


「もっと声出せぇぇぇ!」


 会場が応える。


 さらに盛り上がる。


 俺も自然と拍手していた。


 気付けば。


 演奏は終わっていた。


 アンコール。


 歓声。


 拍手。


 そして。


 終演。


 楽屋。


「せんぱーい!」


 ドアが開いた瞬間だった。


 結衣が飛び出してきた。


 いつもの結衣だった。


「あ」


 少し安心する。


「どうでした!?」


 期待に満ちた目。


 まるで子犬だった。


「凄かった」


「へへへ」


 嬉しそうだった。


「本当に上手かった」


「へへへへ」


 さらに嬉しそうだった。


 だが。


 俺が言いたかったのはそれじゃない。


「格好良かった」


 結衣が固まった。


「え?」


「格好良かった」


 もう一度言う。


 数秒。


 結衣は固まったままだった。


 そして。


 耳まで真っ赤になる。


「え?」


「なんで?」


「なんでって?」


「可愛いとかなら分かるんですけど!」


 そこなのか。


「格好良かったよ」


 素直な感想だった。


 すると。


 結衣は両手で顔を隠した。


「無理」


「何が」


「無理です」


 意味が分からない。


 だが。


 周囲のメンバーは笑っていた。


「初めてじゃね?」


「初めてだな」


「言われてたな」


 何の話だろう。


 その帰り道。


 スマホが鳴った。


━━━━━━━━━━━━


『今日はありがとうございました』


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 珍しく真面目な文だった。


 だが。


 次の瞬間。


━━━━━━━━━━━━


『格好良かったってもう一回言ってください』


━━━━━━━━━━━━


 やっぱり結衣だった。


 思わず笑う。


 そして。


━━━━━━━━━━━━


『格好良かった』


━━━━━━━━━━━━


 そう返信した。


 既読が付く。


 三秒後。


━━━━━━━━━━━━


『やばいです』


━━━━━━━━━━━━


『何が』


━━━━━━━━━━━━


『やばいです』


━━━━━━━━━━━━


 会話になっていなかった。


 だが。


 その日の夜。


 寝る前。


 ふとライブを思い出す。


 スポットライト。


 歓声。


 歌声。


 そして。


 ステージの上の結衣。


「……」


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 ドキッとした自分がいた。

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