第30話 後ろにいる
大学の図書館。
静かだった。
俺は本棚の前で立ち止まる。
「お」
新刊が出ていた。
好きな作家の新作。
迷わず手に取る。
「……」
その時だった。
少し離れた場所。
一人の女性が固まっていた。
雨宮栞。
黒髪ロング。
いつも本を抱えている。
「雨宮さん」
声をかける。
栞は肩を震わせた。
そして。
小さく頭を下げる。
「こんにちは」
珍しく声が聞こえた。
かなり小さい。
だが確かに聞こえた。
「こんにちは」
返事をする。
それだけで。
栞は少し嬉しそうだった。
気がした。
たぶん。
「新刊?」
俺が本を見せる。
すると。
栞の目が少しだけ大きくなった。
「好きです」
「面白いよな」
コクコク。
勢いよく頷く。
この人。
本の話だけは本当に反応が良い。
それからしばらく。
本の話をした。
好きな場面。
好きなキャラ。
次回予想。
意外と普通に会話できる。
本限定だが。
そして。
気付けば閉館時間だった。
「帰るか」
俺は本を借りる。
栞も借りる。
そして。
図書館を出た。
駅へ向かう。
数分後。
何となく後ろを見る。
栞がいた。
「同じ方向?」
栞は固まった。
数秒。
動かない。
その後。
コク。
頷いた。
「そうなんだ」
再び歩き出す。
そして。
また数分。
後ろを見る。
いた。
「……」
いた。
ずっといた。
信号。
栞も止まる。
コンビニ前。
栞も止まる。
駅前。
栞もいる。
そして。
スマホが鳴った。
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『もっと本の話したかったです』
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目の前にいる。
いや。
後ろにいる。
「今話せばいいじゃん」
送信する。
栞がスマホを見る。
固まる。
さらに固まる。
そして。
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『難しいです』
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思わず笑った。
本当に不思議な人だ。
駅へ到着する。
「じゃあ」
振り返る。
「またな」
栞は驚いた顔をした。
それから。
少し慌ててスマホを取り出す。
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『はい』
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たった二文字。
だが。
なぜか嬉しそうだった。
翌日。
大学。
「東條」
佐藤だった。
「ん?」
「後ろ」
言われて振り返る。
そこには。
栞がいた。
本を抱えている。
そして。
目が合った瞬間。
慌てて本を開いた。
「誰?」
佐藤が聞く。
「友達」
そう答える。
その瞬間。
栞のスマホが鳴った。
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『友達です』
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送信者。
雨宮栞。
「今送るな!」
思わずツッコんだ。
栞は顔を真っ赤にしていた。
佐藤は腹を抱えて笑っていた。




